「カイト」

「がくぽさまっ!」

座敷にがくぽが現れた途端、カイトはぴょこんと跳ねて立ち上がる。その勢いままに駆け寄ると、無邪気に抱きついた。

たい・たいる・てぃ

ほんの小さい頃から、カイトはがくぽが訪れると大喜びで、駆け寄って抱きついた。

しかし多少大きくなってからは、そういう子供じみた振る舞いは控えるようなっていた。

そうでなくても、言動の端々に稚気が抜けず、引きずられたのか、見た目もあまり大人びていない。

そうやっていつまでも幼い振る舞いを続けていると、いつまで経ってもがくぽさまに『オトナ』として見て貰えない、と――

無理して我慢していたのだ。

けれど今、晴れて祝言を挙げて、正式に娶られた以上、我慢する理由もなく。

「がくぽさ………んぁ」

愛おしさと悦びとで輝く笑顔を向けたカイトのくちびるは、すぐさまがくぽのくちびるに塞がれた。

小さな口に舌が押しこまれ、たどたどしく応じる舌を絡め取る。歯列をなぞり、頬肉を舐め――

「ん、はふ………ぅ、ぁう………っ」

伝う唾液を飲み込みきれず、カイトの口周りはとろとろと濡れて汚れる。

垂れる唾液を追うように、カイトの体も力を失くしてずるずると落ちた。

「ん…………ぅ…………」

ほわん、とカイトの意識が飛びかけたところで、がくぽはようやくくちびるを離した。

「ん、は……っ、はふ、はふ、はふ………っんんっ」

「落ち着いて息をしろ、カイト。噎せるぞ」

「んん………っ」

畳に半ば膝をついたカイトの体を支えるがくぽは、やさしく言いながら口周りの唾液を舐め取る。

獣の毛づくろいにも似たしぐさだ。

カイトの唯一の友人である野良猫の『ふこ』が、ちょうどこんなふうに自分の仔猫たちを舐めて、きれいにしてやっていた。

ふこに舐められて、あるときは心地よさにまどろみ、あるときはあまりのしつこさに、みぃみぃと抗議して――

「ぁ………ん、はぁ………っ」

カイトはぶるりと背筋を震わせ、がくぽに縋りつく。

武将として鍛えた体は、いくら大きくなっても『姫』として、いっさいの武芸も覚えることなく暮らしてきたカイトより、ずっと逞しく強い。

カイトが全力で縋りついたところで、まるで小さいころと変わっていないとでもいうように、軽々抱えてしまう。

なにひとつ、変わったところなどないのだと――

「ぁ………っあ、ゃあ……っぁ………っ」

「なにが厭だ」

口周りをきれいにしたがくぽはそのまま舌を辿らせ、赤く染まる耳朶を食んだ。

やわらかさを愉しむように牙で弄ばれ、カイトはぶるりと震えて、さらにがくぽに縋りつく。

「耳を食われるが、好きであろう、カイト?」

「ぁあ………っぁ、んんぅ………っぁうぅ、がくぽ、さまぁ……んっ」

耳朶を弄ばれながら笑い声を吹き込まれ、カイトはかん高く甘い声で啼く。

少し子供っぽい声かもしれないと、カイトは密かに憂慮していたりする――がくぽにしろメイコにしろ、周りにいる大人の声は低めで、静かに落ち着いている。

カイトの声だとて、年を経るにしたがってある程度の低さを得たが、がくぽに対するときだけは、どうしても高くなってしまう。

うれしくて楽しくてはしゃいで、その挙句に子供のようにかん高い声になるのだ。

ようやくがくぽが娶ってくれたとはいえ、こんなふうに子供っぽいところが残っていたら、『大人』として扱うのを止めてしまうかもしれない。

会うたびにしてくれるようになった口吸いも、共に寝る布団の中の蜜事も――

「んっ、ぁあ……っふ、ぁんっ」

耳朶を嬲っていた口が筋を伝って首に降り、柔肌をきりりと咬む。

完全に畳に転がったカイトは、ひたすらにびくびくと体を痙攣させた。

子供っぽくしないようにと思うのに――

さっぱりうまくいかない、現状。

こんなかん高い声じゃなくて、もっとしっとりと艶っぽい声。

縋りつくだけじゃなくて、旦那様にご奉仕。

願うことは、多いのに。

「ん、ぁんっ、がくぽさまぁ………っ」

「そろそろ息が整ったか?」

「ぁ、ん、んんふ………っん、んちゅ、ん、んんん………っ」

息が整うもなにも、ずっと喘がされているのだ。大して整ってなどいない。心の臓は痛いほどに波打っているし、頭は眩むし――

それなのに、抗議する間もなくがくぽにくちびるを塞がれて、カイトは押し込んでくる舌に懸命に応じる。

「ん、んん………っふぁ、んんぅ……っ」

びくびくと跳ねるカイトの体を上から押さえ込むがくぽは、激しく口を吸いながら、乱れた着物を脱がしていく。

淀みなく手が動き、姫らしくきれいに整えられていた着物は解かれて開かれ、興奮に薄く色づく肌が露わにされた。

「ぁ、は………っぁっ」

またもや落ちる寸前に、がくぽはようやくカイトからくちびるを離す。

じんじんと痺れるばかりで、きちんと空気を吸えている気がしないカイトのくちびるを、名残惜しげに舐めた。

「…………そなたのくちびるを、ずっと味わいたかった」

「…………ぁ…ふ……っ」

痺れたくちびるを舐め辿りながら、がくぽの手は晒したカイトの肌を撫でる。

どこもかしこもがくぽの手によって敏感さを増し、反応することを覚えさせられたカイトの体だ。

軽く撫でただけでも身を捩って悶える姿に、がくぽのくちびるは笑みを刻んだ。

「我が育てた、我の花………我のためだけに咲き、我だけを受け入れる、愛おしさに限りのない、唯一の妻よ」

「…………っは、ぁんぅっ………っぁ、ゃあぁぅう……っ」

なにかひどくうれしいことと大事なことを言われている気がしたが、カイトは与えられる快楽に、ひたすらに身悶えるのが精いっぱいだ。

がくぽは微笑み、自分が教えた通りに反応を返すカイトを見つめる。

普段の振る舞いには未だに幼さが垣間見えても、こうして自分の手が触れると即座に、艶やかに咲き開くようになった。

かん高く甘い声は耳から脳髄を蕩かして、さらに己を耽溺させる。

膝に抱いてあやすことももちろん楽しいが、そこにもうひとつ愉しみが加わって、もはやなにがあろうとも決して手放すことなど出来ない存在。

「……………愛しているぞ、カイト」

耳に吹き込むと、一際大きく震えて仰け反ったカイトの下半身が、しとどに濡れたことがわかった。