あめしすてぃあ・でぃおにそしぃ
「がくぽさまぁ」
「ああ………」
「んふっ………んくっ、んく………っ」
膝の上に乗せたカイトに強請られるまま、がくぽはくちびるを重ねる。ただ、重ねるだけではない。
その口には酒が含まれていて、それをカイトの口の中に送り込んでいる。
首に腕を回して擦りついているカイトは、うれしそうに咽喉を鳴らして、送られる酒を呑み干した。
「んっ……ぁ、ぉいしぃ………っ」
くちびるが離れると、酒によってますますもつれる舌で、愛らしく吐き出す。
いつもとろりと甘く見つめてくるカイトだが、酒を含ませたときの蕩け具合は格別だ。
凭れるカイトの顎に軽く手をやって持ち上げ、つぶさに表情を眺めつつ、がくぽは笑った。
「カイト、夫から呑ませてもらうばかりか、そなた?妻と成ったのだから、きちんと夫にも奉仕せよ」
「ん、はぁい………」
からかうように言うと、カイトの笑みはますますうれしげに輝く。
一度ぎゅっとがくぽにしがみついてから膳へと手を伸ばし、自分用にと用意され、酒も注いである猪口を取った。
わずかに覚束ない手つきでそれを自分の口元に運ぶと、軽くひと口、啜る。
「ん………っ」
「ふ…っ」
体を反してくちびるを突き出したカイトに、がくぽは笑って顔を寄せた。くちびるを重ねると、カイトはわずかに腰を浮かせて、がくぽに伸し掛かるような体勢になる。
舌とともに注ぎ込まれる液体を啜り、がくぽは咽喉を鳴らした。
「ん………っ、はぁ…………っ」
「…………旨い。格別だ」
「ん………ぅふ………っ」
くちびるが離れて、濡れたそこを舐めながら言ったがくぽに、カイトはさらに蕩けた顔で満足そうに笑った。
へちゃんと腰を落として、再び膝の上に戻る。もじもじと尻を蠢かせて居心地を整えると、抱いてくれているがくぽへと頭を凭せ掛けた。
そもそもがもうカイトは、膝に乗せるような年ではない。
確かに妻とは成したものの、それは膝に上げる対象とはならない。がくぽの態度はあからさまに、やり過ぎだ。
晩酌に付き合わせるにしても、きちんと正対して座るか、傍らに侍らせて酌をさせるのが、妻としての本来――
日が暮れて仕事を切り上げ、カイトの住む離れへとやって来たがくぽは、いつものようにメイコに晩酌の支度を命じた。
そして用意された膳を前に座ると、まずカイトを膝に上げた。猪口を取るでもなく、まずはカイトだ。
残念な長年の習性で、カイトはがくぽが膝に上げることを拒まない。箱庭に閉じ込め、世間から隔離して育てたカイトは、それがおかしいことなのだと思える根拠がない。
――大好きながくぽさまに、たっぷりと甘やかしてもらえる。
考えているのは、およそそんなことだ。
妻と成せるほどの年になっても、閉鎖空間しか知らないカイトはひどく無邪気で、幼稚だった。
その幼稚さを、がくぽはなによりも愛でている。
幼稚でありながら、がくぽが触れると艶やかに咲き開く、この哀れな花が――歪んでいると言われようとも、愛おしくて堪らない。
「カイト、ほら」
「んー。ぁんっ」
がくぽが差し出した指を、カイトは無邪気な擬音とともにぱくんと咥えた。
そこには、カイトを膝に乗せたまま器用に膳へと手を伸ばし、掬い取った味噌が乗っている。
「んー。んんっ…………んちゅ……ん、ふ、ちゅ……………」
「…………」
酒精で痺れた舌に、辛い味噌は心地よい。
いつもなら、このままでは辛いと眉をひそめるカイトも、今はおいしそうに瞳を細めてしゃぶっている。
その舌が、味噌がなくなってもがくぽの指に絡みつき、しとどに濡らしながら吸い上げて、甘く牙を立てた。
わずかに指を曲げて粘膜に爪を立ててやったがくぽに、カイトはびくりと体を跳ね上げさせる。それでも指は咥えたまま離さず、ちゅうちゅうと吸った。
「ん………ふ、ぁん……………っん、ちゅ…………」
「……カイト」
「ん………はぁい…………」
静かに呼びながら舌を掻いてやると、カイトは寝ているような蕩けた声で返事を寄越した。くちびるを尖らせてちゅっと吸ってから指を抜き、放り出していた猪口を取る。
新しい酒を注ぐと口に含み、がくぽへと伸び上がった。
「んー…………」
「ん………」
重なったくちびるはすぐに開き、がくぽの口の中にはカイトの体温でぬるさを増した酒が注ぎ込まれる。
「ん………ん。………ぷは……っ」
「カイト。そなたにも遣ろう」
「ぁ、はふ………ん、んくっ、んく………っ」
くちびるが離れると即座に、がくぽは自分の猪口に残っていた酒を含む。
未だ呼吸の整わないカイトに口づけると、強引に流し込んだ。
咽喉を鳴らして飲みこんだカイトは、くちびるが離れると熱っぽい吐息をこぼして、がくぽに凭れかかった。
「ぁふ………ぅ…………っ」
夜の仄明かりにも、カイトが赤く染まっていることがわかる。
「んーっ」
機嫌の良いねこそのもののしぐさでがくぽに擦りついたカイトは、わずかに体をにじらせた。もぞもぞと蠢き、結局、足の間に手をやる。
「カイト………おいたをするな。幾つだ、そなた?」
くちびるを歪めて諌めたがくぽに、カイトは子供のしぐさままで、ぷくっと頬を膨らませた。
「んんっ。年なんて、かんけーないですもん………っ。だってずっと、当たるんですもんっ。ごりごり、気になるんですぅっ」
「まこと、そなたは………」
程よく酔ったカイトの口調は、いつも以上に幼い。
その幼い声と表情、しぐさで、手が弄るのは尻に『ごりごり』と当たる――がくぽの雄だ。
手つきは幼いようだが、長年かけて仕込んだだけはあって、妙にこちらの弱いところを突く。そのうえ、やっていることと表情の落差もまた、背徳感を伴って劣情を煽る。
弄られるに任せながら、がくぽはちろりとくちびるを舐めた。
カイトの背を抱いて支える腕をゆるりと下ろして、腰骨を辿る。がくぽとの晩酌の間に乱れ、はしたなく肌を覗かせる足を撫でた。
「ぁ、……んっ」
「そろそろ頃合いか?酒を呑んだそなたは――」
「んっ、ぁ、あ、がくっ、ぽ、さまっ」
腕の中でびくりびくりと跳ねる体を押さえ込み、がくぽは足を撫でる手をそのまま、奥へと辿らせる。
その手は、がくぽほどではないが興奮を兆していたものを通り過ぎ、さらに奥、夫のみに開かれる場所へと入り込んだ。
「ぁ………っ、は、………っんんっ」
「…………いい頃合いだな。触れもせぬで、すでに蕩けている」
「ひゃぁ…………んんっ」
本来とは違って、男を呑みこむことを躾けられたカイトの排泄器は、うねりながら貪欲にがくぽの指を受け入れる。
首にしがみついて体を跳ねさせたカイトの頬に、がくぽは笑って口づけた。
「良い具合に酒を染ませたそなたは、まこと蕩けて欲深に吸いついてくる……。ああ、そうだ」
「んっ、んぁっ?!」
ふとなにかを思い立ったようながくぽは、差し込む指を二本に増やし、締まる場所をくちりと割り開いた。
跳ねて立ち上がろうとしたカイトを押さえ込むと、かえって膝の上に寝転ぶような形にして、足を開かせる。
「ぅ、ふぁあっ、んっ、が、がくぽ、さまっ」
「またここから、酒を呑ませてやろうか。ずいぶん、気に入っていたろう?」
「ゃ、っゃぁあっ」
言われたことに、カイトはがくぽの手から逃れようとするように、じたじたもがいた。
「あれ、あれは、あれは、いやですぅ……っ。お、おなかが、あっつくなって、頭がぶわんとして………っ」
「ああ。愉しかったな」
「ん、んんんっ………し、しかもがくぽさまが、そ、そこに口をつけて………っ中のお酒………っ」
「旨かった」
「ゃあぁんん………っオトナ、こわぃい………っっ」
カイトの上げた悲鳴に、がくぽはわずかに呆れた顔になった。
「なにを言うておる、カイト。そなたももうその、怖い『大人』であろうが。…………もしも大人でないと言うならば」
「ぁ、あっんんっ、んゃんっ」
入れた指の節で、中の弱いところをぐりりと抉られる。カイトは体を跳ね上がらせ、がくぽの首に腕を回してしがみついた。
「ゃ、ぁ………っ、そこ、そこ………ぉ、ぐりぐり、ぃゃあん…………」
容赦を強請る声は甘く高く、言葉は舌足らずで幼い。大人だと言い聞かせながらも、どうしても稚気が拭いきれない。
がくぽはくちびるを舐めて湿らせ、しがみつくカイトの中をさらにきつく抉った。
「っあ、ぁああんっ」
「………大人でないと言うなら、こういうことは、してやれぬぞ?ましてや、ここに我の雄を押しこむなぞ、とても………」
「んぁんっ」
笑って嘯き、耳朶を食むがくぽに、カイトはさらにきつくしがみついた。喘ぎながら懸命に顔を上げると、擦りついてくちびるを移動させ、がくぽの耳朶に咬みつく。
「こら」
「っん、ゃ、ゃです…………カイト、カイト、オトナです…………オトナなんですから、してくださらなきゃ、いや………カイトにがくぽさまの入れて、がくぽさまの女にしてくださらなきゃ、いや………っ」
「………ふ」
懸命なおねだりに、がくぽのくちびるが笑みを刷く。その笑みは仄かだが、これでいて笑み崩れているに等しい。
次期棟梁として、そして今は棟梁として、配下に舐められることのないよう、表情も感情も圧するように躾けられ、暮らしているがくぽだ。そもそもが、変化に乏しい。
ここまで崩れれば、他人から見ればくちびるをわずかに吊り上げただけだが、十分に。
「では、ここに酒を呑ませてもよいな?」
「んっ、ぇ、え………ぁ………」
しらりと続けられたが、カイトが勢い任せて頷くことはなかった。口ごもって、がくぽにしがみつく。
しばらくくちびるを空転させてから、結局、嘆願するようにがくぽの顎に触れた。ちゅっと吸いつくと、甘ったれな光を宿して見つめる。
「…………それは、ゃ、です…………ん、はずかしぃ…………し、っんっ」
「仕様のない」
「んぁっ」
嘆息したがくぽだが、わざとだ。それほど、下から酒を呑ませることに固執しているわけではない。
ただ、嫌がったり、恥らったりしながらも擦りつくカイトを見ることが、愉しいだけだ。その結果として了と言えばもちろん、躊躇いもなくやるが、厭だと言うなら、どこまでも強引に押し切るつもりもない。
それでも非常に残念そうには振る舞って、がくぽは蕩けるカイトの中を弄った。
「まあ良い。とりあえずは、そなたを普通どおりに可愛がってやろう。存分に啼かせて蕩かせ、それからもう一度、訊くことにしようか」
「がくぽさま………っ」
諦めない言葉に、カイトはわずかに呆れたような声を上げた。
がくぽにしがみついたまま、おずおずと上目に見つめる。
「…………そんなに、その………カイト、の、……そこ…に、お酒を、呑ませて…………そこ、から、…………呑むの、お好きなんですか…………?」
「………」
ある意味、非常に難しい問いだ。
わずかに沈黙してから、がくぽはカイトの中から指を抜いた。顎を掬うと、笑みの形のくちびるを寄せる。
「案ずるな。とりあえずは、普通に可愛がってやろうから」
「え、だから、がく…………っふ」
言葉を遮るようにくちびるを塞がれ、舌で丹念に口の中を辿られる。
カイトはすぐさま蕩けて、がくぽに縋りついた。
「ん………っん、ふ………っ、ぁ、う………っ」
いちばん好きなのは、口吸いだ。しかし、いちばん不慣れな行為でもある。
思わず懸命になるカイトの体勢を変えさせ、がくぽは馴らしただけでもなく蕩けて雄を待ち望む場所に、自分を宛がった。
「ぁ、んんん………っ」
くちびるを塞がれたまま、いくら蕩けても蕩けたりないほどに質量のあるものが押し入ってくる。
震えて仰け反ったカイトのくちびるをしつこく追って吸い、腕の中の体が痙攣したところで、がくぽはようやく呼吸の自由を赦してやった。
「ぁ、はぁ………っ、ぁ、ぁ…………っ」
「…………いかな安酒も、この世の最高級の美酒に変える。好まぬはずが、あるまい?」
吹き込んだがくぽの言葉は、呼吸を継ぐことに精いっぱいのカイトには届かない。
汗に濡れそぼりながら仰け反り、それでいながら全身でしがみついて受け入れる小さな体を抱きしめ、がくぽは幸福に染まって笑った。