「っっ」
冷水を浴びせられたような気分になって、がくぽは蕩けているカイトを見た。
でぃおにそしぁ・あめしすてぃ-17-
そなたは女だ、女に成れと、常から言っているのはがくぽだ。
けれどカイトから、はい、女になります、と明言することは少なく、いつも啜り泣く声や、戸惑いながら頷くだけで返事に代えている。
がくぽにしても、怒りに任せて吹き込みはするが、そこではっきりと誓約しろとまで迫ることはない――どんなときであっても、そこを強要することだけは、出来なかった。
ここまで姫として育て、暮らしてきたカイトが、いざ俗世に放り出して、男として生きていけるかどうかは別として――
だからといって、心から女に成れと、強制したくはなかった。
カイトが男であることに変わりはなく、それでも誰よりも愛おしいことにも、変わりはなく。
「がくぽさまぁ」
「………カイト」
身を固くするがくぽに、カイトはふらりと体を起こした。漲るものに指は絡めたまま、がくぽの胸にしなだれかかって、いつも甘えるときのように頭を擦りつかせる。
「………カイトに、がくぽさま、ください………指じゃなくて、本物の、がくぽさま。………カイトのおなかに入れて、カイトのこと、ちゃんと抱いてください………」
「………」
凝然と見つめるがくぽに、カイトはわずかに顔を向けた。
瞳が恨みがましい光を宿して、反応の鈍いがくぽを見つめる。
「してくださらないと、カイト、いじけますから……」
「………」
脅し文句に、がくぽは軽く瞳を見張った。
しばらく、恨みがましいカイトの瞳と見合って、その目が和む。
くちびるが、小さく笑いをこぼした。
「………いじける、のか?」
訊いたがくぽに、カイトは真面目に頷く。
「はい、いじけます………がくぽさま、往生なさいますからね………カイトはいじけると、それはそれはもう、始末が悪いんですから」
「ほう」
どこまでも真面目に、カイトは吐き出す。瞳は恨みがましい色を宿したままで、すでに『いじけ』に入っているのかもしれない。
がくぽはますます表情を緩めると、すでに復活してそそり立っているものを弄ぶカイトの指を取った。
「………そなたをいじけさせたくは、ないな。そなたは笑っているのが、いちばん良い」
こぼれた言葉は、滅多には覗かせないがくぽの本音だった。
こうやって体を開いているときには落とすことがないやさしい言葉に、けれど酩酊の中にいるカイトは、動揺することもなかった。
伸び上がってがくぽのくちびるの端に、やわらかくくちびるを押しつける。
「ならば、抱いてください、がくぽさま。カイト、がくぽさまが抱いてくださったら、いじけないで笑いますから」
提示された交換条件の愛らしさに、がくぽはしなだれかかるカイトの腰に手を回した。
さっき解しきれなかった場所に指を沈め、中を掻き回す。
「ぁ………っんっ」
びくりと震えて、カイトはがくぽに縋りついた。裸の胸に爪が立って、かりりと引っ掻かれる掻痒感に、がくぽもぶるりと背筋を震わせる。
一瞬は、冷水を浴びせられたような気分になった。
けれど、続いた言葉の幼さ――あまりにあどけなく、幼気な言葉。
聞いて、自分がおかしくなった。
カイトは、ひたすらに無邪気で、無垢だ。こうして淫らがましいことをしていてすら、稚気の中にいる。
抱いてくれと強請るのは、甘やかせと言っているのも同義で、がくぽが普段から根暗い想いとともに吐き出すような意味ではない。
がくぽにかわいがられたいと、甘やかされたいと、その我が儘の延長線上にある、少しだけはしたない、おねだり。
「ぁあ………ん、ぁ、ふぁ、がく、……っさまぁ………」
探るがくぽの指に合わせて、カイトは甘い声で啼く。しなだれかかったまま身悶えるカイトを眺めて、うっすらと笑みを刷き、がくぽは汗ばむ額にくちびるを落とした。
「………そなたが望むなら、抱いてやろう。我を打ちこんでやる」
「ぁうっ」
ぐり、と一際強く、弱いところを押されて、カイトは仰け反る。
差し出された胸にくちびるを落とし、がくぽは再びカイトを畳に横たえた。小さく尖る飾りを、舌を絡めて吸い上げる。
「ゃあ………っんっ………」
「……ふ」
カイトはかん高い声を上げて、がくぽの頭を抱いた。抱くだけで済まず、長い髪を掻き混ぜるように動く手に、がくぽは眉だけひそめて頭を上げ、体を起こした。
放っておくと、藪のようにされてしまう。そうなると、始末も大変だ。
「ぁ、がくぽさまぁ……っ」
カイトは幼子がむずかるように、舌足らずにがくぽを呼んで求める。
ちろりとくちびるを舐めると、がくぽは震える細い足を掴んで大きく割り開き、持ち上げてそこを晒し出した。
「ぁあ、ゃ……っそんな……っ」
「これくらいで恥じらっていて、どうする」
「んん………」
むずかるような声を上げながら、カイトは離れたがくぽへと手を伸ばす。
片時も離れたくないと行動で言われて、がくぽは瞳を細めた。
十分な硬さを持ってそそり立つ自分を手に取ると、指で入念に解した場所に宛がう。
「ぁ………っ」
「カイト」
当たった熱に、カイトの体がびくりと震えた。
がくぽは身を屈ませて、カイトの頬にくちびるを落とす。宥めるように、誤魔化すように、その場所をつぶさに眺めようとするカイトの顔を、舐め辿った。
「ぁう……んん、ゃっ、がく………さま、っ………ぁ、んん、んふっ」
まるで獣のように舐められて、カイトは笑いをこぼした。
その瞬間を狙って、がくぽはすかさず腰を押し進める。
「ぁ……っぁ、は、かは………っ」
今まで数年をかけて、指で馴らされ続けた。
カイトのそこは異物を飲みこむことを覚えていたが、ここまでの質量を持つものは初めてだ。
さすがに引き切れるような感覚に、息を詰まらせて身を硬くし、仰け反る。
「カイト………大丈夫だ、………大丈夫………力を抜け。そなたを抱くのは、我ぞ」
「は………っ」
呼吸が覚束なくなっているカイトの耳に、がくぽはやわらかく吹きこむ。慰めとなりそうなことといえば、それくらいしか思いつかなかった。
「カイト………そなたを抱く、我の名を言え」
「は………ぁ………っ」
耳朶に吹きこまれる声はやわらかくやさしくても、隠しきれない欲に掠れ、熱を持ってカイトに命じる。
強張っていたカイトは動かない腕を懸命に繰って、伸し掛かる体に回した。掠めた場所に爪を立てて寄る辺とし、さらに自分の体へと重みを招く。
「ぁ………っ」
「カイト。我の名を呼べ………そなたを抱く男の名を」
「は……」
招かれるままに体を落としたがくぽは、吹き出した汗に濡れそぼり、さらにしっとりとした感触を伝えるカイトの肌を撫で回す。
声を吹きこむ耳朶から緊張に筋張る首へとくちびるを辿らせ、浮く骨にかりりと牙を立てた。
「ぁ………あ、がく、………がく、ぽ、さま………っ」
「ああ」
カイトが名を口にした瞬間に、がくぽは即座に頷いてやる。
頷いて、さらに愛おしさの増した体をやさしく撫でた。
「そうだ、カイト………そなたを抱く男の名を呼べ。誰が、そなたに楔を打ち立てているか。誰がそなたの腹を、犯しているのか……」
「んぁ、あ………がくぽ、さま………がくぽさま………っぁ、がくぽさま……がくぽさま、が………っカイトの、中に……っ」
「そうだ」
名を呼ぶたびに、カイトの体はやわらかく解け、引きつっていた粘膜が蕩けて蠢き、がくぽを押し包んで受け入れていく。
がくぽは瞳を細め、うねる場所の心地よさに吐息をこぼした。
「カイト………」
「ん、がく………がくぽ、さま………ぁ、がくぽさま………っぁあ……」
「ふ……っ」
堪えきれず、がくぽは腰を突き上げ始めた。
「ぁあ……っんっ、ぁああ……っゃあっ、ああぅ、がく……っぁああっ」
カイトの声が、悲鳴じみた色を帯びてかん高く鼓膜に響く。
それでも一度打ちつけ出した腰の動きを止めることは出来ず、がくぽは悶えるカイトの体を押さえつけて逃げを封じ、己の凶器を突き上げた。
「ぁああ……っんん、ぁう、ぁあう……っぁっ」
片手でカイトを押さえつけつつ、がくぽは片手を下半身に回し、腹の間に挟まれた未熟な性器に指を絡めた。
こうして組み敷き、男のもので貫いていても、カイトも確かに男なのだと証立てる場所だ。
突き上げながらも扱いてやり、先端を擦ってやると、あからさまにカイトの表情が変わった。
「ゃあ………っ」
声に甘さが戻り、身悶える動きの種類が変わる。
これがあるから、カイトが女を求めるかもしれない危惧に苛まれた。どこか忌々しく思っていたがくぽだが、今になって愛しさが募った。
そこまですべて含めてカイトで、そこまですべて含めて、愛らしい。
愛おしい。
「カイト………」
胸に募る愛おしさを込められるだけ込めて、がくぽはカイトの名を呼んだ。
「ぁああ………っっ」
「ふ……っ」
かん高い声を上げてカイトが仰け反り、指を絡めた場所が一層の膨張を示して刹那に、大きく震えて濡れた。
間歇的に吹き上がるそれに合わせるように、がくぽを飲みこむ場所が激しく収斂をくり返す。
息を詰めても堪えきれず、がくぽはカイトの腹の中に精を放っていた。
「カイト…っっ」
「ぁあ、おなか……っぉなかに………っ」
うわごとのようにつぶやいたカイトが、奥に吹き出して腹を満たしていくものの感触に再び震え、きつく瞼を閉じた。
「だめぇ………っまた……っ」
「………」
がくがくと痙攣をくり返し、カイトは仰け反る。苦しげにくちびるが戦慄き、呼吸も覚束ないままに快楽の渦に巻かれた。
ややして腕が落ち、体から力が抜ける。
「………カイト」
密やかに名を呼んで、がくぽは瞼を下ろしたカイトの顔を眺めた。
初めての感覚に意識を飛ばし、眠りに落ちた顔は快楽の名残りを宿して艶めかしく、けれどそこにいつもの幼さも垣間見える。
「………」
がくぽはくちびるに笑みを刷かせて、横たわるカイトの髪を梳いていた。