「カイト、土産だ」
「ほええ?!」
帰って来たがくぽが懐から取り出したものを見つめ、カイトは瞳を見張った。
にぎはやひ
がくぽの片手のひらにちょこなんと収まる、小さいそれは、仔猫だ。
まだ生まれて二、三か月ほどか、瞳ばかりがくるんと大きくて愛らしい仔猫は、カイトを見つめて甘い声で鳴いた。
「どうしたんですか?!」
がくぽが片手で無造作に掴んでいたそれを両手のひらで受け取り、カイトは瞳を瞬かせる。
がくぽはカイトの傍らに腰を下ろしながら、肩を竦めた。
「途中からついて来てな。そのうち飽いて、母親のところへ戻るだろうと思うたのだが…………戻りやせぬ。払っても脅しても離れぬゆえ、そなたへの土産にした」
「ふくっ」
ほとほと疲れたようにぼやくがくぽに、カイトは吹きだす。
おそらくは、自分についてくる仔猫が鬱陶しいというより、母親とはぐれたであろうことが心配で、散々に苦労したに違いない。
カイトは笑ったまま、両手に乗せた仔猫に頬を寄せた。
「おまえはねこだけど、見る目があるね。がくぽさまが誰よりやさしいこと、きちんとわかるんだから」
甘くささやいて、ふんわりと毛の立った頭に口づける。
次の瞬間に仔猫が手のひらから取り上げられ、カイトは瞳を丸くしてがくぽを見た。
仔猫をつまみ上げたがくぽは、渋面でカイトを見返す。
「捨ててくる」
「ええ?!」
「そなたのくちびるを奪うなど、赦せぬ。捨てる」
「がくぽさまっ」
喜んでいいのか慌てればいいのかわからず、カイトは口元を押さえてがくぽを見つめた。
畳に仔猫を放したがくぽは、軽く手を払って、小さな体を外へと押しやる。しかし仔猫のほうは、それをじゃらされていると取ったらしい。
がくぽの手に組みつき、飛び離れてと、楽しそうに跳ね回りだした。
「………なんだそなた。なかなか良い素養を持っておるではないか。そらそら、気張れ」
追い払おうとしていたはずなのに、いつの間にかがくぽは仔猫をじゃらすことに夢中になっていた。
微笑ましい光景に小さく吹きだしたカイトだが、ややもすると、その顔が曇った。
「そら、そら………ん?!」
仔猫をじゃらすがくぽにしがみついたカイトは、それこそねこのように頭を擦りつかせた。
「カイト?」
「捨てちゃだめですけど…………………っ、俺のことも見てくれないと、だめですっ」
わずかに尖って吐き出された言葉に、がくぽは声高く笑い、拗ねた顔のカイトに深く口づけた。