透かし彫り浮世絵
隣に座っていた体が、こてんと凭れかかって来た。
「んく………」
「――寝たのか」
力無く、縋りつくように凭れるカイトを覗きこみ、がくぽは小さく笑う。
まだ日が高い。寝る時間ではないが――
昨夜も、遅くまで苛んだ。啼く声が、懸命に応えようとする体が、かわいくて愛しくて。
それでいながら、朝議に出かけるがくぽのために早起きしているから、眠くもなるだろう。
「ん………」
ふるりと震えた体に、がくぽは眉をひそめた。
「まだ寒いな………風邪を引くか」
陽射しはあるが、まだ暑い時期でもない。掛物を持ってくるか、さもなくば布団を延べて運ぶか――
凭れるカイトを離して立ち上がろうとしたがくぽは、中途半端な姿勢で止まった。
カイトの手が、着物を掴んでいる。寝惚けてぶれる瞳が潤んで、困惑するがくぽを見上げた。
「いっちゃいや………」
「………」
掠れ声でつぶやくと、カイトは再び頭を凭せ掛けて、寝に入った。
しばらく凝固していたがくぽだが、かりりと首を掻くと、座り直した。
寝に入っても弱々しく掴まれたままの着物を見やり、寒そうに縮こまる体へと視線を流し、もう一度、かりりと首を掻く。
「そなたは酷いぞ、カイト」
哀れっぽい声で、がくぽはぼやいた。
「斯様に愛らしく振る舞っておいて、寝るとは………手を出すに、出せぬだろうが。どれだけ俺の忍耐を鍛えれば、気が済むのだ」
ぼやいてから、カイトの体を引きずり上げて膝に乗せる。
胸に抱えこむと、カイトはねこの仔のように擦りついてきた。
その寝顔が、ほんわりとしあわせそうに緩んでいる。
「どれほど俺に忍耐を強いるのだ、そなた……………」
愉しそうにぼやいて、がくぽはカイトの頭に顔を埋めた。