くちづけのいろした
「カイト、梅の花が咲き揃うたぞ。見に連れて行ってやろう」
「ふわわ?!」
足音も荒く座敷にやって来たがくぽは、火鉢の傍に座っていたカイトの返事も待たずに、その体を抱え上げた。
縁側から下駄をつっかけ、庭の一角へと向かう。
「…っ」
「寒いか」
日は出ているが、まだ寒い。
ふるりと震えてがくぽにしがみついたカイトは、訊かれてほんのりと目元を染めた。
「大丈夫です。がくぽさまとくっついてるから、あったかいです」
「ははっ」
愛らしい返事に、がくぽは声高く笑うと、腕に乗せた体をさらにきつく抱いてやった。
「ふわわ、きれい…………!」
庭の一角に立つ梅の木の傍に行くと、カイトは瞳を細めて、うっとりと見入った。
座敷からも見えてはいたが、間近で見るとさらに美しい。
芳しい香りもあって、カイトはしばらく、陶然として梅の花に見入った。
しかしふと気がついて、自分を抱き上げるがくぽへ顔を向ける。
「……………がくぽ、さま?」
「ん?」
「お花………見てます?」
「ああ、見ている」
問いに、がくぽは当然だと頷く。
だがその顔は、梅の木ではなく、カイトに向いたままだ。
困惑に揺れる瞳に、がくぽは笑った。
「そなたの瞳に映る花を、見ている」