帰って来たがくぽの袖を掴み、カイトはぷうっと頬を膨らませてみせた。
「がくぽさまってば……こんなとこに鉤裂きなんてこしらえて。どこでやんちゃなさってきたんですか?」
花匁
「大人にしておったぞ」
「いいですから、座って」
「ああ」
傍らに座らせると、カイトは一度立ち上がり、お針箱を持って来た。中から針と糸を取り出すと、がくぽに向かって手を伸ばす。
片袖を脱いだがくぽの、わずかに出来た綻びに針を通した。
ちくちくと器用に縫っていって、すぐにも小さな鉤裂きは閉じられる。
「はい、いいですよ」
「上手いものだ」
「これくらい、大したことありません」
ぷつっと歯で糸を切り、カイトは当たり前の顔でがくぽの袖を放す。
縫い跡を見ていたがくぽは、カイトがきちんと針と糸を仕舞うのを確認してから、手を伸ばした。
抵抗を知らない体を抱き寄せ、額にくちびるを落とす。
「褒美に、なにか呉れてやろう。なにが欲しい?」
「ごほうび、ですか?」
きょとんと訊き返すカイトに、がくぽは頷く。
愉しそうに笑っているがくぽに、カイトはわずかに頬を染めた。上目遣いのおねだり顔になって、がくぽの着物の袷を軽く引く。
「がくぽさま」
「ん?」
「………がくぽさま、が、欲しいです」
「………」
吐き出されたおねだりに、一瞬きょとんとして、それからがくぽは声高く笑った。