「がくぽさま、がくぽさま!涼みましょう?」
「あん?」
うだるような暑さに、畳に大の字で伸びていたがくぽを、まったくへこたれた様子のないカイトが呼ぶ。
夏の日差しより眩しいおよめさまの笑顔に誘われて、がくぽは億劫な体を起こすと、縁側に行った。
きこしろめせ、やまづむがおと
「ね、足入れてください」
「ほう」
縁側の下になみなみと水の汲まれた、たらいが置いてある。なにかばたばたしていると思えば、これを用意していたらしい。
がくぽは言われるままに縁側に腰を下ろすと、たらいの中に足を浸した。
汲みたての井戸水はひんやりと冷たく、暑さにばてていた体に命が吹きこまれる感がある。
「ちょっと、ごめんなさい」
「ん?………ああ」
がくぽの後ろに回ったカイトは、長く垂れる髪を手早く上にまとめてくれた。
晒された首から背中にかけて、蟠っていた熱が逃げていくのが心地いい。
「いっそ切るか」
安堵のあまりに、がくぽはぼやいた。
髷を結うのが通例の武家社会で、髪を長く垂らしているのは、周囲への威嚇だ。自分が異端であると、誇示するための。
だが最近は、そうまで肩肘張らなくてもいいような気がしている。それはつまり、カイトという伴侶を得たことによって。
自分が丸くなっていくのを感じるのは、意外と楽しく、悪い気のするものではない。
おそらくそれはすべて、カイトだからだろうが――
「さすれば……」
「だめです」
まだ後ろにいるカイトが、きっぱりと言う。
振り向いたがくぽが応えるより先に、ひと房落ちている髪を拾い、くちびるをつけた。
「だめですからね?」
いたずらっぽく微笑んで、念を押す。
がくぽは天を仰いでから、体を捻るとカイトを抱き寄せた。
「そなたも浸かれ」
「……そんなにくっついたら、暑くないですか?」
ばて気味の夫を気遣う様子に、がくぽは笑った。遠慮がちな体をさらに抱き寄せ、ぴったりと密着する。
「そなたの熱は心地よい。ずっと浸っていたいほどに」