中天には黄帝在り
縁側の先を見やって、がくぽは軽く瞳を眇めた。
陽だまりとなっている縁側に、カイトが無防備に横たわって眠りこんでいる。
傍には、殻剥きが終わった豆の入った笊があるから、きっとひと仕事終えたあとなのだろうと思う。
地道にして労力のかかる仕事を終えた、達成感と陽だまりの心地よさ――それに誘われて、つい、というところか。
「…………やれやれ」
特に気配を忍ばせるでもなく傍に行くが、カイトはぴくりともしない。
『ねねさまってぼんやりしてるようで、意外と隙がないのよね~。イタズラしようにも、気がつくと避けられちゃってて』
そんなふうにリリィがぼやいていたが、がくぽの目には隙だらけに見える。
「…………」
すやすやと眠りこむおよめさまの足元に座り、がくぽはじっくりとその寝姿を眺めた。
しあわせそうだ。
和む。
「………が、まあ、それとこれとは、別だ」
ぼそりとつぶやいて、がくぽはカイトの片足を取った。
自分が傍にいて無防備に寝こけたというならいいが、ひとりきりだというのに無防備な態を晒すことは赦せない。
それがたとえ、屋敷の中とは言っても。
がくぽは持ち上げたカイトの片足にくちびるを寄せ、骨の浮く足首にがりりと牙を立てた。
「っいっ?!ん………っ、ぁ、がくぽ、さま…………?」
びくりと跳ねて、カイトが瞳を開く。
がくぽは足を放すと、身を倒してカイトに伸し掛かった。まだどこか寝惚けたような瞳を覗きこむ。
「カイト、そなたな…………ん?」
「ん……」
瞳を眇めたがくぽが説教するより早く、カイトの手が首に伸びた。
伸し掛かるがくぽをさらに招きよせると、自分も頭を上げてくちびるを重ねる。
「んちゅ………」
……………
……………………
……………………………
「んん………んちゅ………ん。ん………ぇと、がくぽさま………おはようございます…………。ご用事ですか……?」
「………」
思う存分に口づけを堪能してから、カイトは舌足らずに訊く。
まだ寝惚けているような、とろんと蕩けた顔を見つめ、がくぽは肩を落とした。
瞳だけで軽く天を仰ぐと、再びカイトへと身を沈める。
「忘れた」