時を告げる鐘が鳴っても、真冬の朝はまだ白むこともなく暗く、そして寒い。
とはいえお勤めのある身では、起きないわけにもいかない。
時告げる鳥の怠慢
「………やれやれ」
傍らに寄り添うぬくもりを名残惜しく思いつつ、がくぽは体を起こした。素裸には、さらに寒さが堪える。
自分がこれほど寒いのだから、昨夜の名残りで疲れきり、未だ眠るおよめさまはなおのこと――と、がくぽは竦む体を叱咤した。
潔く布団から出ようとして、動きが止まる。
腰に、やわらかく腕が回されていた。
「………起きたか、カイト?」
「……………」
そっと声をかけると、腰に回された腕に力が込められた。
「………さむい、です……」
「…………まあな」
ぽそりとこぼされた声は、わずかに掠れている。覚めきっているわけでもないのだろう、茫洋とした響きもある。
それでも、腰に回された腕だけは、強い。
「がくぽさま………俺を置いて、どこに行かれるんですか……?」
責めるように訊かれ、がくぽは軽く天を仰いだ。暗い。そして寒い。
「仕事だ。………疲れていよう?そなたはまだ、寝ていていい。早朝に気持ちよく目覚められるような、容易い責めをした覚えもないしな」
しらりと付け足しつつ、がくぽは答えた。
実際、疚しいことなどない、正規の仕事だ――どんな仕事であれ、疚しくするのが悪家老として鳴らす、印胤家であっても。
その答えに、カイトの腕にはますます力が込められた。
「ひとりで置いていかれたら、寒いです」
布団に戻れと暗に求められて、がくぽは再び天を仰いだ。やはり暗い。そして寒い。
「………グミに、行火を持たせよう」
夫の示した妥協案に、およめさまは腰に回した手を立て、肌に爪を食いこませた。
「行火は、がくぽさまじゃありません」
「………」
がくぽは深いため息をつき、かりりと頭を掻いた。
降参だ――
「まあ、アレだな………どうせ俺は、嫁に耽溺しているともっぱら噂だからな。嫁をあたためていたと言えば、大抵の口は封じられる」
つぶやくとがくぽは、かわいいおよめさまのぬくもりに満ちる布団へと戻った。