がたがたがたと、雨戸がひっきりなしに鳴っている。
布団から半身を起こしたがくぽのくちびるは、呆れたように仄かな笑みを刷いた。
「……………まだ、荒れていたか」
暗行嵐山
雲行きが怪しかったのは、夕刻からだ。
早めに夕餉を取って、雨戸やらなにやらで屋敷を閉ざした。
悪家老として名高い印胤家だから、そうやって屋敷を閉ざしたところで、暗闇を照らすための良質の油も、蝋燭も薪も、なんでもある。
けれどわざわざそういったものをすべて排して、愛しいおよめさまと二人、布団に雪崩れこんだ。
もちろん、暗いからと自棄を起こして寝たわけではない。
暗いからこそ、盛り上がる夫婦の閨ごとというのが、ある。
明るいところで、淫靡に崩れるおよめさまの表情をつぶさに眺めるのも、愉しい。
けれど視界の利かない暗闇で、なにをされるかわからずに感覚を尖らせ、普段以上に感度の上がったおよめさまを悶え啼かせるのも、また愉しいことだ。
そうやって、一度二度どころでなく交わった、束の間の空白。
「…………がくぽ、さま……」
体の下に敷いたカイトが、掠れる声を上げた。
相変わらず暗い中だ。表情は見えないが、声は疲れ切って、気怠く沈んでいた。
見えないとはわかっていても、がくぽはカイトへと笑いかけ、肌を辿って頬を撫でる。
「………ぁ…」
「荒れる外の音をただ聞いているでは、そなたが無闇と怖かろうとな。俺としては嵐が去るまでの心づもりで、励んだのだが――どうにも、嵐のほうが性根が据わっている。まだ荒れ模様だ」
「………」
嘯きながら頬を撫でるがくぽの手に、カイトはねこのようにすりりと顔を擦りつけた。
熱が出たように熱くなっている手が、頬にあるがくぽの手に重なる。
「…………ね………がくぽ、さま………」
「………」
暗闇に発されるカイトの声は、甘い。さらなる快楽を要求されているようにしか、聞こえない。
見えない中に、それでもおよめさまの真意を探ろうと瞳を凝らすがくぽに、カイトは熱く湿った吐息をこぼした。
「もっと……………」
「…………」
「いじわる、なさらないで……………俺のこと、もっと、もっと………」
頬を撫でる手から腕を伝い、カイトの手はがくぽの首へと回る。
引き寄せられるまま、がくぽはカイトへと沈みこんだ。
緩やかにかけられる重みに、カイトはさらに熱っぽい吐息をこぼす。
「がくぽさま………俺のこと、もっともっと、たくさん食べて………もっともっといっぱい、俺にがくぽさまを食べさせて………?」
快楽が過ぎたせいか、ものも見えない真っ暗闇にいたせいか。
カイトの箍は、とっくに外れていたらしい。
嵐が未だに続いていることなど、気にもしていない。いや、意識の端にも引っかからない。
はしたなくおねだりされて、がくぽのくちびるは淫蕩に笑み崩れた。
「………そなた、嵐の夜は亢進するものよな」
「がくぽさまぁ………」
感想に構わず、焦れたカイトは足を擦り寄せ、腰を揺らして、がくぽを誘う。
雨戸はがたがたと音高く鳴り、うるささのあまりに眠れる気もしない。
だが、眠れる必要もないような気がする。
がくぽは誘われるまま、再びカイトの体へと溺れこんだ。