手入れが終わって、がくぽは傍らに置いていた鞘を取った。刃紋の美しく際立つ刀を仕舞うと、ふと眉をひそめる。
顔を横へ向けると、首を傾げた。
「……………カイト?」
廓格子
刀の手入れをするがくぽの傍で、縫い物に勤しんでいたはずのカイトだ。
しかし今、その手は完全に止まり、瞳はぽやんと霞んで、宙を見つめていた。
頬もほんのりと赤く染まり、くちびるも緩んでいる。
夢見心地だ。起きているのに。
およめさまがこうやってぽやんとしていると、発情しているのかとかなんとか難癖をつけて手を出すがくぽだが、今日のカイトのぼんやり度はいつも以上だ。
洒落を言っている場合ではないような気がする。
がくぽは眉をひそめたまま、畳の上をにじってカイトの目の前に行った。
「カイト!」
「………ぁ……」
わずかに声を荒げて呼ぶと、カイトはようやく、ほんの少しだけ正気に返ったような顔になった。
ほんの少しだ。完全にではない。
「どうした。なにを考えている」
詰問するように訊いたがくぽを、カイトはとろんと蕩ける瞳で見た。
「がくぽさまに、見惚れてました…………」
「……っ」
発情している方向で合っていた。
熱っぽく吐き出された言葉に、咄嗟には返すこともできずに瞳を見張っただけのがくぽを、カイトはうっとりと見つめる。
「かっこいいなーって………もう、かっこよすぎて、目が離せなくって…………」
「…………そうか」
紡ぎ出される熱烈な告白に、がくぽはきょろりと瞳を回した。
それからいつもの通り、にんまりと性悪に笑うと、カイトへと手を伸ばす。抵抗を知らない体を抱き寄せると、顎に手を掛けた。
「ならば、カイト。もっと恰好良い俺を見せてやろうか?」
「………」
夫がこういう顔で、およめさまにこういうことを言った場合、示される先はひとつだ。
ひと瞬きしたカイトは、首を傾げ、そっとがくぽの胸を押した。
そのうえで、おねだりするとき特有の上目遣いとなって、がくぽを見つめる。
「もうしばらく……………見惚れていたいです…………」
「……………」
カイトの言葉に、がくぽは瞳を見張ってから、ため息をついた。
要するにもうしばらくは、ひたすらにがくぽを眺めてうっとりしていたいと。
「………そなたは時々、ひどくむつかしいことを言うものよな………」
慨嘆したがくぽは、カイトが満足いくまで眺めるに任せた。