ほしぼしのさざらあめ
「ね、がくぽさま。がくぽさまは、舐めるとしゃぶるなら、どちらですか?」
――どういう問いだ。
溺愛してやまないお嫁さまが放った問いに、大の字で、ごろりと座敷に伸びていたがくぽは表情を消した。
「……………ものに因る」
「ああ………そっか」
なんであれ、非常に無難に返したがくぽに、カイトは素直に頷いた。小さく息をつくと、崩した着物の襟を持って、ぱたぱたと煽ぐ。
夏の盛りの、昼間だ。
特に暑くなった今日は、陽射しのほとんど当たらない北側の座敷に逃げても空気が温い。とてもではないが、きっちりと帯締めまでした着物など着ていられない。
念のために人払いはして、がくぽもカイトも帯を解き、前を開いてとして、だらしなく着物を崩した。
崩された着物からは当然、肌が覗く。暑さにうんざりとし、なにもかもに気力を失ったような心持ちだったが、しかし――
「ぇえと、この間、リリィちゃんと話していて………」
襟を持ってぱたぱたと着物を煽がせながら、カイトは記憶を探るように上目になる。
「俺は飴玉を、『舐める』って、言ったんです。そしたらリリィちゃんが、飴玉は『しゃぶる』ものだって。『舐める』じゃ、全然物足らないって、言うんです」
「あめ………」
「それに、グミさまも………どちらかといえば『舐める』じゃなくて、『しゃぶる』って。『舐める』じゃ、ぴんとこないって言うんですけど」
そこまで言って、カイトはきょとりと首を傾げてがくぽを見た。
「グミさまと、リリィちゃんと、揃ってでしょう?がくぽさまは、どうなのかなって………もしかして印胤家的な、感覚なのかと」
「ああ…………まあ」
適当に頷いて、がくぽは転がったままかりかりと、耳の後ろを掻く。
束の間しかめられた顔は、すぐにしらりとした表情を刷いた。
「やはり、ものに因る」
「そうなんですか?ものって………飴玉の種類?それとも………ふきゃっ?!」
無防備に身を乗り出したカイトを、素早く体を起こしたがくぽは座敷に押し倒した。抵抗する間もなく、素直に転がったカイトの着物を開くと肌をあらわにし、ちらちらと覗いてはひとを煽ってくれた胸にむしゃぶりつく。
「ふきゃ、ゃ、あ、がくぽさっ!!」
「だからな、ものに因るだろう?」
わたわたと身もがくカイトを易々と押さえこみ、一度顔を上げたがくぽはしらりと続けた。
「たとえばこのように、一絡げに胸の肉と言っても、舌でこそげるように舐めたい肉と、はしたなくも音を立ててしゃぶり食らいたい粒と、分かれるであろう?そなたの体の全体にいっても、そうだ。丁寧に隈なく舐めてやりたい場所と、貪るようにしゃぶりたい場所と………」
「ちょちょちょ、がくぽさまっ!がくぽさまっ!!」
組み敷かれたまま抵抗もままならないカイトだが、懸命に叫んだ。暑さのせいだけでなく頬を真っ赤に染めて、しらしら述べ立てるがくぽを、潤む瞳で睨む。
「だ、誰がそんな話をっ!俺は、飴玉の話をして」
「舐めるかしゃぶるかだろう」
皆まで聞かずに断言し、がくぽは体の下に組み敷いたお嫁さまへ呆れたように肩を竦める。
「そもそも俺がそう、飴玉なぞしゃぶるか。俺が舐めるにしてもしゃぶるにしても、それはすべてそなただけだ。それ以外のたとえなぞ、しようにもできん」
「が、がくぽさま………っ」
なにかしら救いようのないことを、がくぽは堂々主張した。唖然としたカイトに、臆することもない。
「そなたは俺にとって、まさに甘露だ、カイト。そなたに勝るものなぞ、あるものか。舐めるにしてもしゃぶるにしても、そなた以上のものなど俺にはない」
言い切ったがくぽに、唖然としながらも、カイトはさらに赤く染まった。
常に常に思うが、カイトの『旦那さま』は――
「ぁの、あの、がくぽさま………っ。おれ、俺も、がくぽさまだったら、舐めるのもしゃぶるのも、舐められるのもしゃぶられるのも、どっちも好き……っです………っ」