誰何の南瓜
煙管を咥え、座敷で寛いでいたがくぽだが、ふとなにかを思い出したらしい。にやりと笑うと、傍らで繕いものに励んでいたおよめさまへ顔を向けた。
「カイト、そういえば今日はな……外ツ国の祭りの日らしいぞ」
「……外ツ国の、……ですか?」
唐突な話題に、カイトはきょとんとした顔を上げた。
繕いものの手を休めると、にやにやと性質の悪い笑みを浮かべている夫を、こちらは無邪気に見返す。
「なんのお祭りです?」
「さてな」
訊き返したカイトにすげなく答えて、がくぽは煙管を咥えた。ひと息吸ってから、煙を吐き出す。
答えの素っ気なさを詰るより先に、反射のように、カイトの目は煙の行方を追う。その様は、ねこなどの獣のようでもある。
無邪気な様子を愉しんでから、がくぽは煙管を煙草盆に置いた。
「外ツ国のことなぞ、ようわからん――なんでも、童べらが百鬼夜行に化けて家々を巡り、菓子を寄越さぬば悪戯するぞと、言うとかなんとか」
「………へえ」
どういった状況なのかうまく思い描けず、カイトはきゅっと眉をひそめて考えこむ。
そんなカイトを、それこそ鬼めいたあくどい笑みを浮かべたがくぽが覗きこんだ。
「菓子を寄越せ、カイト?さもなくば、悪戯してくれよう」
「………」
脅されて、カイトはきょときょとと瞳を瞬かせた。がくぽは愉しそうに笑いながら、そんなカイトがなにかしら反応するのを待つ。
きょとりとしていたカイトだが、ようやく腑に落ちた感もあった。
よくは知らないと言いながら、しかも脈絡も繋がりもないまま、夫が唐突に外ツ国の祭りの話などを振って来たわけが。
つまり、これだ。
『寄越せ。さもなくば悪業だ』という、この件が非常に、因業で鳴らす印胤家当主のお気に召したのだろう。
ある意味でわかりやすい。
思いつつ、カイトはにやにやと笑うがくぽを見返した。
「おかし、ですね………はい、がくぽさま」
「ん?」
こくりと頷いたカイトは手を伸ばし、がくぽの頬をさらりと撫でると、顔を寄せた。ちゅっと、ほんのわずかに触れるばかり、小さく小さくくちびるをついばんで、離れる。
「………カイト?」
今度、きょとりとしたのはがくぽだった。いつもは世を見る視点まま、ナナメに眇められている瞳が、素直な驚愕にまん丸くなっている。
カイトはほんのりと目元を染めながら、微笑んだ。
「足りませんか?」
「あ?いや、かい……」
「じゃあ、もうちょっとだけ」
なにか言いかけたがくぽのくちびるを、カイトはまたも、ちゅくりと軽く、ついばんで離れる。
カイトはふわふわと照れながら微笑み、愕然として自分に見入るがくぽの頬をやわらかに撫でた。
「……言っても、おやつ、ですからね?これ以上は、いたしませんよ?でも………」
言葉を切って、カイトはちゅっちゅと、がくぽのくちびるをついばむ。
「これだけだったら、いくらでも差し上げますから……」
「………なるほど」
くちびるをついばまれ、不明瞭になりながら、がくぽは頷いた。軽く、瞳を回し、天を仰ぐ。
奇をてらったわけではなく、策を弄したわけでもなく。
天然だ。
まったく自然かつ当然と――
「なるほど………」
非常に深いところで納得したがくぽは、愛らしくくちびるをついばみ続けるおよめさまの腰をぐいと招き寄せ、懐に抱きこむ。
そうやると、与えられる『おかし』を心ゆくまで、堪能した。