猿田比古は天宇受売に踊る

うららかな昼下がり、縁側に座ってぼんやりと過ごす。

傍らには溺愛して止まぬおよめさまがおり、およめさまが手ずから淹れてくれた茶を――

「ぬるいっ!!」

茶をひと口啜ったところで叫んだがくぽを、カイトはぎょっとしたように見た。

「えぬるかったですか、お茶もっと熱いのがすぐに淹れ直し」

「違うっ!」

あわあわと腰を浮かせるカイトに、がくぽも多少、慌てて声を上げた。

「茶はいい加減だ。問題ない。そうではなくな」

「んっ、え、はい???」

口早に弁解を重ねつつ、がくぽは浮いたカイトの腰を抱き、自らのもとへ抱き寄せる。

基本、がくぽのやることに逆らわないカイトは、大人しく招かれた。膝立ちで、がくぽの顔を胸に抱く。

「がくぽさま?」

頭を抱き、長い髪を梳くようにやわらかに撫でつつ声をかけたカイトに、がくぽは勢いよくため息を吐きだした。

「暮らしの話よ。生き方のな。ぬるい。印胤家当主ともあろうものが………なんたるぬるま湯に生きておるものか。そなたの幸いのためにはいいとしても、俺の生き方として………ぬるい。ぬる過ぎだ。鈍る」

「はあ………」

カイトの胸に顔を埋めたまま、がくぽは心底から悔しげに吐き出す。

カイトは首を傾げ、がくぽのつむじを眺めた。腰に回った腕の力はむしろ強くなり、食いこむようで、若干、痛い。まるで縋られでもしているような。

「そう、そうだ。鈍る。たまには研がねば……企み、謀り、悲鳴と怒号とを起こさねば、ぐむっ?!」

――やわらかだったカイトの手に力が入り、きつく抱きこめられる。顔を潰されたがくぽは言葉を続けられず、情けない呻きを上げた。

「ぉい、かい……むぐぶっ!」

基本カイトは、がくぽのやることに抵抗しない。しかし今日は、どれだけもがかれても力を抜くことなく、きつくきつく、がくぽの頭を抱きこみ続けた。

ややしてがくぽが抵抗に疲れ、大人しくなったところで、ぽつり、つぶやく。

「疲れてらっしゃるんですね、がくぽさま……きっとちょっと、働き過ぎなんです。なんだかんだ、がくぽさまはまじめでいらっしゃるから」

「ぉい………」

いったい誰の、なんの話をしているのかと、がくぽはさらに疲れた心地となり、カイトの胸にぐったりと身を預けきった。

預けきって、思う。

力は研ぎ続け、尖らせ続けねばならない。

でなければいつ、誰にどう、足を掬われ、地獄も易い怨獄に叩き落とされるかわからないのが、印胤家というもの。

しかしとりあえず、明日からだ。

明日から、印胤家の当主らしい悪逆非道なる働きを取り戻すこととしよう。やらねばならないことは雑多に多いが、とにかく明日からだ。

なぜといって今、今日、このおよめさまの慰撫から抜け出すのは困難だし、無理で、不可能だからだ――