「すぴっ」
「………よし」
マスターの寝息を確かめると、俺は布団を掛け直してやり、ベッドから下りた。冷房の設定温度と湿度をもう一度確認したうえで、寝室から出る。
おねつっこさんにとろりんホットアイス→加糖版
こう言うとアレだが、実のところ、あまりカイトのことは心配していない。
まだ幼い少女であるマスターにはその理由を説明出来ないので、うまく安心させてやることも出来なかったが。
下手な説明をすると、マスターが誤解して傷つく恐れもある。
だったらまだ、心配させておいた方がいい。
そう判断して、とにかく昼寝をさせることに専心したが――
「………カイト」
通称『クーラー室』と呼ばれる、ほんの三帖ほどの狭い部屋に入ると、押し寄せてくるのは冷気だ。この家の中は隈なく冷房を行き渡らせているが、それでもここからは圧倒的な冷気が溢れだす。
後付けながら、断熱材で分厚く天井から床、壁と覆い、熱効率は良くしてあるものの、夏場にこの冷気は贅沢としか言いようがない。
それでもたまにどうしても、ここまでの冷気が必要になるのが俺たちロイドというものだ。
「………がくぽ?」
「マスターは寝た。ぐっすりだ」
「………」
狭い部屋に置かれているのは、体が伸ばせるサイズのソファがひとつだ。机もない。
ここはあくまでも、熱処理が追いつかなくなったときの一時避難所に過ぎないからだ。クーラーも、常にがんがんに利かせているわけではない。使うときだけだ。
そのソファにぐったりと伸びたカイトの顔は未だに赤く、瞳は気怠い色を宿していた。
部屋に入って近づく俺を、じっと見る。
「おまえを心配していた。自分が寝たなら、すぐにもカイトの様子を見に行けと、――厳命だったぞ」
「………」
笑いながら言うが、カイトが笑い返すことはなかった。口元を押さえて、俺から視線を逸らす。
その手が、かたかたと微細に震えていた。
「が……くぽ。あの………」
「――先に、ひとりで慰めているかと思ったんだがな。最中に踏み込んだら、どれだけ愉しいだろうと想像していたんだが………残念だ。品行方正だな、おまえは」
「………っ」
殊更に声を低めて、ささやく。ソファの傍に立つと、カイトはきゅっと瞳を閉じた。
すぐに開くと、潤みきった瞳で俺を見上げる。ふらりと体を起こすと、傍らに立つ俺の腰にきゅううっと縋りついてきた。
布地の上からとはいえ、際どいところに愛おしげに頬ずりされる。
「がくぽ………ぁ、がくぽ………っ、ごめ……ごめ、んね………?ちょっと、……ちょっとだけ……っ」
「謝るな」
「ふぁん………がくぽ………っ」
「っ」
俺の声も聞こえていない風情で、カイトは際どいところに甘く牙を立てる。そのまま甘えるように、布地の上から幾度も咬みつき、ちゅくちゅくと啜られた。
「ん、がくぽ……がくぽ………」
「………出来れば、直接ヤってもらいたいもんだな、カイト………っ」
いつもとは違い、カイトの表情はすでに蕩けきって、理性がない。ひたすらに熱の篭もった甘い声で俺を呼びながら、兆していく場所に愛おしげに口づけをくり返す。
――つまるところ、カイトの今回の症状は、発情だ。
おそらくは、寝室に篭もっていた香りかなにかと、『ベッド』という存在や諸々に、『限界』を誘発されたのだろう。
俺たちはマスターが家にいると、その世話にかかりきりになる。マスターもまだ幼く、俺たちが傍に張りついていることを厭いもしなければ、不思議にも思わない。
朝起きてから、夜眠るときも――はっきり言うと、マスターの傍にいないのは、彼女がトイレに入っているときだけだ。
で、現在だ。
マスターは夏休みに入り、一日中家にいる。たまに友人に誘われて遊びに行ったりするが、基本的にはずっと、俺たちは三人で過ごしている。
俺とカイトは、恋人同士だ。肉体関係も込みでの。
しかし夜眠るときですら、マスターと三人のため、彼女が長期休みで家にいると、――まあ、はっきり言ってしまえば、ヤる暇がない。
だからといって、マスターが邪魔だとは思わない。ロイドとマスターだからではなく、こうまで俺たちにべったりとしていてくれるのは、どうせあと数年のことだと思えばだ。
マスターは日々成長しているし、女だ。いくらナニーであっても、男であるカイトや俺と、そうそういつまでもべったりくっついていてはくれない。いずれそれなりに、距離を置きたがるようになる。
それまでの、ほんの短い期間だ――むしろ今のうちにべったりしておかないと、後々悔いることになるとわかっているから、俺たちから殊更にべたついているというところもある。
だから、長期休みを厭いはしないが――それはそれで、これはこれだ。
しばらくの間、俺とカイトはマスターの目を盗んでの、ちょっとしたキスしかしていない。
そうとはいえ、同居だ。
俺とカイトはマスターと共に暮らしていて、寝るのも食べるのも一緒だ。
常に傍にいて、触れ合える仲だというのに、わずかに触れるキスだけ――で、しばらく過ごしていると、いくらロイドであっても、溜まるものがある。
相手に対して思うこともなければ、大したこともないが――だから、恋人同士だ。俺とカイトは。
どちらが先に『発情』するかは、まちまちだ。
俺が先に音を上げることもある。なにしろ、天然で愛らしいのがカイトだ。誘われて仕方ない。
とりあえずこれまで、マスターの長期休み中に発情することなく、無事に過ごせたことはない。それは例えば、期間の短い春休みや秋休みであってもだ。
普段が普段だからな――マスターが学校に行っている間に、それはもう、思うさま存分に。
というわけで今回は、先にカイトが音を上げた、と。
「ん、は………がくぽ………っがくぽ………っ」
「ちょっと待て……っおまえも焦れているだろうがなっ、俺もいい加減、限界なんだ……っ」
急くあまりに、服を脱がせることすら出来なくなっているカイトを宥めつつ、俺はべったり濡らされた袴を寛げ、痛いほどに兆しているものを取り出す。
俺が余裕綽々に、欲を堪えていたというわけではない。あくまでも、先に音を上げたのがカイトであって、俺だとてそろそろまずい時期だった。
カイトが発情して迫ってくれば、簡単に火が点く。
「ぁ、ふ………がくぽ………がくぽの………っ」
「っく………っ」
取り出してやったものに、カイトは陶然と溶け崩れた笑みを浮かべてむしゃぶりついてきた。いくら馴らしてやっても、普段こうまで崩れる相手ではない。
「ん………ん、ちゅ……っ、は、ん………っふ、んん……っふ……っぅ………っ」
「………っくそ……っ」
咥えられて早々に放つなど、溜まっているのがわかっていても、俺の矜持が許さない。だが、カイトだ。
愛おしさにたびたび理性を突き崩される相手が、貪欲そのものに俺のものに食らいつき、咽喉奥まで咥え、夢中で啜っているのだ。
その様に煽られることこそあれ、醒めるはずもない。
「ん、ん………っんん、んー………っ」
「………っ、カイ………っ」
俺の腰にしがみついて、カイトは張り詰めるものを咽喉奥まで咥えこむ。自分からごりごりと粘膜に擦りつけ、きゅううと締めて、絞り上げる。
あまりに堪え性もないと己を叱咤したものの、限界は限界だった。
「カイト………っ出る………っ」
「んー………っ」
引き離そうと頭を掴んだが、カイトは吸いついたまま離れなかった。どっぷりと出たものを、咥えたまま余さずに飲み干していく。
「ん……っぁ、ふ………っぅ、………がく、ぽ………っ」
「次は……っと、っかい、っ」
残滓までも、じゅるじゅると音を立てて余すことなく啜り飲んだカイトは、口を離すと俺に伸し掛かってきた。
普段ならカイトが伸し掛かって来ようが、揺らぐ俺ではない。受け止めてやるが、今は達したばかりだ。さすがに足腰から力が抜けている。
伸し掛かられるまま、床に無様に転がった俺に乗り上げたカイトは、どこか泣きそうだった。
「ごめ………ごめんね、がく……がくぽ………っぁ、こんな……こんなの…………っキライに、ならないで………こんな、おれ………ガマン、できない………っ」
「カイト、俺はそう簡単に嫌ったりなど……っふっ」
見くびるなと言ってやりたかったが、言葉は情けなくも途中で切れた。
乗り上がったカイトは、じたじたとしつつもスラックスと下着を己で脱ぎ捨てた。達したばかりでも、すでに兆している俺を掴むと扱き、ある程度の硬度を持ったところで、自分から腰を落として来る。
片手では、硬く勃起した俺を掴んで支え、片手では自分の尻を広げ、カイトは蕩けきった表情で腰を落としていく。
「ぁ………っあ…………っこれ……っこれ、がくぽ………ぁああ………いぃ……っ、いい……の……っぁああ……っっ」
「……っ」
飲みこんだだけで、触れもしないカイトのものから溜まり溜まった欲が溢れだした。愛らしい色形でも確かに男である証が、ぴくぴくと痙攣しながら激しく液体を飛ばして、俺の着物を濡らしていく。
カイトは悦楽の涙をこぼしながら、尻に飲みこんだものをきゅうきゅうと締め上げた。
「かたぃ………っん、あ、いっぱい………おなか、がくぽで、いっぱい………っ」
「………っの、ばかが………っ」
低く罵って俺は起き上がり、カイトの腰を掴んだ。
どうしてそうも、しあわせに満ち溢れた表情で、そういうことを言うのか。それで俺が、大人しく堪えられるとでも思うのか。
元々ない理性をさらに失う事態とは、どういうことだ。
「まだ、いっぱいではないだろう、カイト……?直接入れたからな………今日は腹の中にたっぷりと、注いでやる。それこそ、俺で腹いっぱいにしてやろう」
「んっ、ぁん………っ」
耳朶に咬みつきながら吹きこむと、カイトは喜悦に染まる声を上げ、俺にきゅううっとしがみついてきた。その腰が自然とくねって、飲みこんだ俺を味わっている。
「ちょぉだい………っがくぽ………がくぽで、おなかいっぱいになりたい………おなかいっぱいに、して……っ」
「後で泣いても、抜いてやらんからな」
「泣かないも………っぁ、ぅんん………っ、泣いても、ぬかないで………っ」
ああもう、こいつは本当に駄目だ――どうしても、俺の理性を蕩かすことしか言わない。
くねる腰をぐっと引き寄せると、俺は突き上げ始めた。
最初はどうしても、緊張に強張る場所だ。しかし今日はすでに蕩けてやわらかく、俺に絡みついてくる感がある。
出て行こうとすれば引き留められ、奥へと突きこめば歓んで啜り上げられる。
いつもどんなときも具合がいいカイトの中だが、格別だ。堪えようがない。
――そんなふうに堪えようがないとばかり言っていては、俺の甲斐性に関わる。
カイトが泣き喚いて、『くれ』と狂うように希うまで、攻めて攻めてせめてやりたい。
蕩けきって理性の欠片もなくし、無様なほどに快楽に染まりきったカイトの中に、ようやく待ち望んだものを注いでやって、あられもなく狂喜させたい。
が、俺の望みとは裏腹に、俺の体はあっさりと限界を極めようとしていた。
悦過ぎる。
そうでなくても、溜まりに溜まっていたところだ。なにをどう望もうとも、応えられるだけの余力が俺にない。
「………っちっ……」
目も眩むような快楽の中でも、俺は舌打ちをこぼした。
どうしようもない。
発情した恋人の愛らしさたるや、言葉にも尽くせない。この愛らしさに抗しきれるとしたら、それは愛情がないのと同義だ。
溺愛している以上、抗しきれないのは仕方ない。甲斐性で片付く問題ではない。
――とりあえず、今日のところは。
「カイト……っ」
「ぁ、ん……っん、ん……っぁ、キて……っがくぽ、キて………っおく、おくに……っおくに、出して……っ」
「ああ………奥の奥に、たっぷりと注いでやる………っ」
「ふぁあ………っっぁ………っ」
一際きつく腰を引き寄せ、突きこんで、俺は言った通りに腹の最奥へ、欲望を吐き出す。俺にしがみついたまま仰け反ったカイトは、腹に俺の飛沫を感じたと同時にまた達し、大きく痙攣をくり返した。
「ぁあ………おなか………おなか、に………がく……がくぽ………いっぱい………っ」
「まだまだだ、カイト」
「っぁんっ!」
未だ震えている体に構わず、俺は再び腰を突き上げ始めた。俺だとて立て続けに達していて、多少の休憩は必要だが、カイトの中に入っている。
復活するなど、容易い。
なにより、あまり愚図愚図していると、マスターを起こす時間になる。
どこまでもどろどろにカイトを蕩かすのには、今日は時間がない――ならせめて、休みもなく攻めに攻めて、俺で腹を満たしてやる。
マスターの夏休みはまだ当分続くし、これが終われば次はまた、互いが限界に達したときまで『お預け』だ。
「ぁああ、がくぽ……っがくぽ………っぉ………っもっと………もっと、ちょぉだ……っ」
「欲しいか、カイト?」
「ん、ん……っ!ほしい、の……っがくぽ……っがくぽ、いっぱいほしい、の………っん、ガマン、できな………っぁ、あ……っ」
突き上げる俺に合わせて、カイトも腰をくねらせる。
その胸にくちびるを触れさせて、俺は苦笑した――上着を脱がせないままだ。俺もそうだ。カイトを欲して漲るものを取り出しただけ。
がっついているにも、ほどがある。
笑いながら、俺は布地の上からカイトの胸に、きりりと牙を立てた。
「ゃぁあ……っイく………っぅ……っ!」
「………っ」
締め上げられて、俺もまた、素直に己を解放する。カイトの腹がきゅううと締まり、注がれるものを貪欲に味わった。
それでもなおも、カイトは俺にしがみつき、腰を揺らめかせる。
「がくぽ………がくぽ……ごめ、ごめ……ね……おれ、こんな………インラン、なっちゃっ………んん…っ」
俺は見当違いなことを謝るくちびるにくちびるを重ねて塞ぎ、揺らめいてはいても、ぐったりと力を失くしつつあるカイトの腰をなおも抱えた。
やはり、おやつは俺が作ることになりそうだ、マスター。
あともしかしたら、確実に、夕飯も。
――一応、レシピの通りに作っているんだがな。
俺が作ったものを食べるたびに、「おいしいけど、なんかヘンなの!なにがヘンだかわからないけど、ヘンなのよ!」と困惑のドツボに嵌まるマスターだ。
しかしまあ、マスターもなによりも、カイトの快復を望んでいた。
今日残り半日、ちょっぴり困惑のドツボに嵌まることも、許容してくれ。
その代わり、俺が気合いを入れて、とっても元気で愛らしいカイトに戻してやるから。