こくりと咽喉を鳴らして飲みこみ、がくぽはくちびるを舐めた。
その眉が訝しさにひそめられ、濡れるくちびるを拭った手を、舌が這う。
「………」
舌が覚えるのは、甘み。
砂糖や果物とはまた違って、けれど確かに甘み。
とはいえ、そんなことがあるだろうか――人間の体の、それも体液すべてにおいて。
郊外型学者の唱うる公害の真説
「どうなっているんだ………?」
「ん………っ」
訝しさに首を傾げるがくぽの前では、全裸のカイトが羞恥に染まりながら、快楽に震えている。
カイトが抱える体の秘密が明らかになり、ようやく組み伏せることに成功した。
待ち望んでいた、この日だ。
闇に紛れさせることなくすべて見たいから、とカーテンを開き、寝室は皓々とした月明かりに照らされている。
妙に興奮をそそる光の下、カイトは寝台に組み伏せられた。
がくぽはようやくありつけた体に丹念に舌を這わせ、手で撫で回し、においを嗅いで、それこそ五感すべてでカイトを堪能していた。
ようやくありつけたと言っても、キスだけはしていたし、上半身を舐めるくらいのこともしていた。
そのときにも、カイトの唾液や肌が妙に甘く感じられて、違和感を持った覚えはある。
しかし所詮は唾液であり、肌だ――そういうこともあるだろうと、大して気にもしていなかった。
だが、今日初めて口をつけ、舐め啜り、飲みこんだカイトの精液が、またしても甘かった。
さすがにそれはないだろうと、いくらトチ狂った思考回路でも思う。
「カイト、おまえ………全身、甘いぞ。どういうことだ?」
「………んっ、はぁ…っ」
口の中が、カイトの性器が吐き出した体液で、粘ついている。本来ならそれは精液のはずで、甘くはない。
それでも口の中にあるのは紛れもなく甘みで、それも不快なものではなく、何度も何度も求めたくなるような、癖になる甘みだ。
がくぽは再び晒されたカイトの下半身に沈みこみ、吐き出したばかりでもすでに力を取り戻しているものに口をつけた。
女王の「呪い」だとかで、子供のように毛もなく、まっさらな肌だが、反応は確かに大人だ。安心していいような、それでいて、未だに不安なような。
まさか子供だから、体液が甘い――わけでもあるまいが。
「ぁん……っ」
「唾液も甘いし、肌も甘い。極めつけに、ここまで甘い……おまえの体は、どうなっている?」
「ゃ、くち………っしゃべんな………っぁあっ」
反り返るものに口をつけたまま、がくぽは疑問を吐き出す。吐息とともに撫でられて、カイトは甘い声を上げて痙攣した。
そのくちびるが、堪えきれないように笑いをこぼす。
「がくぽ……………惚れた、欲目」
「そうなのか………?」
ところどころ裏返りながら吐き出された答えに、がくぽは納得がいかないと眉をひそめた。
確かにカイトのことは、「愛らしい」の擬人化だと思っているし、疑いもしていない。していないが、それだけでまさか唾液や肌のみならず、精液まで甘く感じられるものなのか。
「そう言いだしたらおまえ、まさかここまで………」
「っぁあっ、ぁんっ」
反り返って汁をこぼす性器から辿って、がくぽは奥へとくちびるを移動させる。
奥まった場所へ舌を伸ばし、襞の中に潜らせた。本来は排泄器官であるそこは、カイトががくぽを受け入れるために、自分で開発済みだ。
すでに物欲しげにひくついていた場所は、がくぽの舌を悦んで迎え入れた。
「ぁ、ぁあっ、ふっ………っくぽ、ぁ、そんな、とこっ………舌で、なめちゃ………っゃぁあっ」
かん高い声で叫んで、カイトは一際強く、襞を締めつけた。同時に反り返っていた性器から新しい精液が吹き出し、カイトの肌に散る。
「…………敏感だな」
「………って………ずっと、がくぽに、さわってほしくて………っ」
口を離してつぶやいたがくぽに、カイトは飛び散った精液を肌に塗り広げながら、熱っぽい吐息をこぼす。
「からだ、おかしい………あっつくってうずうずして、ぜんぜん、おさまんない………っ」
苦しげに言いながら、カイトはぬるつく肌を撫で上げ、ぶるりと震える。
がくぽは身を屈めると、カイトが自分で塗り広げた精液に舌を伸ばした。舐め辿れば、やはり甘い。
ほのかな香気すら感じるような気がするが、そんなことが人間の体であるわけもない。
カイトががくぽのものを舐めしゃぶり、口に受けた後に漱ぐことなく舌を絡めれば、体液というものの味が、決して美味ではないことがわかる。
自分のだからとかそういうこと以前に、カイトだとて初めは言っていた。妙な味だと。
今では癖になったらしく、飲みこむのにも躊躇しないし、口の中で転がすことも覚えた。
しかし本来的にはそういうものであって、決して初歩の初から、美味だと思ったり、癖になったりするものではない。
好きこそ、で簡単に乗り越えられる壁でもあるまいし、どうしてこう感じるのか、がくぽは自分で自分の感覚がわからない。
「………あまい」
「っはぁ、ぁっんんっ……っふぁあっ、ぁんっ」
つぶやきながら、がくぽは夢中でカイトの肌を舐め啜る。塗り広げられたカイトの精液は、肌と諸共に甘く、舌を止めることが出来ない。
「ここも甘かったぞ」
「っぁあっ」
肌を舐めながら、がくぽはさっき舌を押しこんでいた窄まりに指を宛がった。ひくつく場所を丁寧になぞり、緩む隙を狙って人差し指を押しこむ。
「やんわり受け入れたかと思えばぎゅうぎゅうに他人のことを締めつけて、挙句に甘い。おまえは食虫花か」
「ぁは………っ」
夢中で肌を舐めながら腐すがくぽに、カイトは快楽に震える声で笑う。
体に埋まるがくぽの頭を抱いて、急かすように髪を引っ張った。
「そ………だよ。俺、がくぽのこと、たべたくて………ぁ、たべたくて、しょーがない………の。………だから………ぁは、………ふぁあ……っ」
平らな胸を舐めて、そこに小さく尖るものに吸いつく。
さすがに体液が出てくることはないが、もし出てきたらここも甘いのかと思って、がくぽはきつく吸い上げた。
「ぁあ………っも、ね………っ焦らさないで………がくぽ………いれて………っ」
「……」
腰をもぞつかせて強請られ、がくぽは差しこんでいた指を抜いた。そのまま、萎えることなく反り返るカイトのものを撫で、太ももを掴んで割り開く。
「んっ………っ」
「初めてだと言いながら、そうも熱っぽく強請るな。本当に初めてか疑われて、妬ける」
「ふ……っ」
わずかに拗ねた色の混ざるがくぽの声に、カイトはうれしそうに笑った。広げられた足を蠢かせてがくぽの腰を挟むと、誘うように自分の腰を振る。
「はじめて……だよ?入れたら、わかるから………」
「そうか?」
疑う素振りで言いながら、がくぽはカイトの腰へと身を寄せた。媚態に煽られて、痛いほどに張りつめるものを宛がう。
カイトが熱っぽい吐息をこぼして、震えた。手が伸びて、がくぽのものに添う。
誘われるように、がくぽはカイトの中へと自分を押し進めた。
「……っふ……っ」
「ぁ、あ……っは……っ」
入れたらわかる、というのはこういう意味か。
舌や指のときにはすんなり受け入れて、あまりにやわらかいことに疑心がもたげたが、張りつめるがくぽの性器を飲みこませると、そのきつさと狭さに呻き声が漏れた。
手を添わせてがくぽを奥深くまで飲みこんだカイトは、呼吸も覚束ないように舌を突き出し、息絶えそうな痙攣をくり返す。
その瞳から、ぼろりと涙がこぼれた。
「………痛むか」
妬心と、余裕そうなカイトの態度に駆られて、性急にことを進めた感もある。
がくぽはカイトに屈みこみ、こぼれる涙を指に掬った。
どこか気弱な問いに、涙をこぼすカイトはうれしそうに笑う。
「きもちい」
「………」
「がくぽが、俺の中で、びくびくしてるの………ぁ、きもちいって、わかるの………俺で、こんな、おっきくなってるの…………ぜんぶ、ぜんぶ、きもちい………」
涙を掬うがくぽの指を咥え、カイトはちゅ、と音を立てて吸う。甘えるように咬みつき、誘うように舌を絡めて、潤む瞳でがくぽを見上げた。
「『して』……?俺の中、もっとがくぽでいっぱいにして……?」
「………っ」
おそらくは、コマンダー・ヴォイスが含まれていた。
制止されれば抵抗に体が固まるが、促されると堪えようもなく、がくぽはきつく締め上げる場所を擦り上げた。
初めてならば、やさしく、穏やかに蕩かしてやりたい。
そう思う先から、腰の動きが止められない。だめだと言われれば意思が闘いもするが、していいと言われれば、根源的にはこちらの欲求に添っている。
抵抗しようにもしきれるはずがなく、なによりここしばらくの欲求不満生活のツケもある。
「っあ、ぁあっんんっ、ひぁああんっ、ぁ、がくっ、っぁあっあ、ぁあうっ」
激しく攻められて、カイトの声は嬌声というよりも、悲鳴に近い。緩やかに突いてやらねばと思いながら、がくぽはひたすらにきつく腰を押しこんだ。
「っぁああ、っはあっぁ、がくぽ……っぁあ、ぁんっ」
「………っかい、と」
一際大きく震えたカイトが、腹の中のがくぽをきつく締め上げる。絞り上げるように襞が蠢き、がくぽは呻いてカイトの腹の中に精を吐き出した。
「ぅ、あ………せーえき………がくぽの………ぉなかのなかぁ………」
わずかに早く果てていたカイトが、うわごとのようにつぶやく。自分が放ったもので濡れる腹を撫で、さらにきつく、中にいるがくぽを締め上げた。
果てたことで、どうやら「命令」は完了したらしい。
がくぽは荒い息をつきながら、カイトの上に体を倒す。
「おも……ぁはは」
伸し掛かられたカイトが文句を言いながら笑い、乱れるがくぽの髪を梳いた。
やさしいしぐさに犬のように和みながら、がくぽは腰を引く。
「『だめ』」
「っ?!」
その瞬間に発されたコマンドに、がくぽはぎしりと体が固まった。
声でがくぽを呪縛したカイトは、上に伸し掛かるがくぽの体をやわらかに、しかし厳然と抱きこむ。
腰に回された足が、力を取り戻して体を締めつけた。
「………ぬいちゃ、『だめ』………」
「………」
耳元に、甘い声が吹きこまれる。
がくぽは固まった体から力を抜き、逆に腰を押しこんだ――「命令」に従いさえするなら、コマンダー・ヴォイスの効力はすぐに切れる。
がくぽは息を整えると、カイトの体を抱え、ごろりと反転した。
「っふ、わっ?!」
「抜くな」
「っぁっんっ」
横になったがくぽの腰に跨る形にされ、カイトの体が瞬間的に跳ねる。
腰を押さえて体を戻すと、がくぽの腰に座ったカイトは落ち着かなげに身を捩らせた。
「がくぽ………」
「抜くなと言ったのはおまえだろう」
「ぁ、は…………も、ふかぃ………っ奥まで、ごりごりしたの………っ」
カイトは苦しげに吐き出す。苦しげだが、同時にその声はどこまでも甘い。
頽れそうな体を支えながら、がくぽは指を辿らせ、つぷりと尖ったカイトの胸の突起を、きつめに弾いた。
「っぁあっ」
悲鳴のような声を上げて、カイトは仰け反る。
ぎゅ、と中を締め上げられて、がくぽは舌なめずりした。
「…………初めてと言いながら同じ口で、抜いたらだめとは、言うものだな、カイト………どうにも手加減など要らぬ気がしてきた。存分にヤリ尽くしてやる」
「………っぁは」
言葉のままに、がくぽのものが力を取り戻していることが、カイトに伝わる。
陶然と笑ったカイトは、固く鍛え上げられたがくぽの腹筋に手を置いて、腰を蠢かせた。
「好きなだけ、して………がくぽが、満足するまで………俺のこと、何回でも突いて、おなかのなか、いっぱいにして…………」
笑って言うカイトに、がくぽは体を起こすと口づけた。
唾液は甘く、体の芯がじんと痺れた。