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「のわっ!」

「あっははははは、がくぽ、引っかかった!!」

「っこのっ!!」

撮影の合間、スタジオの片隅でぼんやり立っていたがくぽは、唐突に膝を押され、かっくんと崩れた。その背後から、明るい笑い声が上がる。

振り返れば、案の定――

「カイト、おまえな!!」

「サムライの癖に、油断し過ぎだし!!」

「たまには油断させろ!」

マスター同士の仲が良いために、最近仕事を共にすることが多いKAITO――カイトが、勝ち誇った顔で胸を張っていた。

指を差し、けらけらと遠慮なく高笑うカイトに、がくぽは牙を剥きだして掴みかかる。

素直に捕まったカイトは、締め上げられてもひどく愉しそうだ。

「サムライが油断してもいいのは、お風呂に入ってるときと縁側でひなたぼっこしてるときだけだし!」

「どこで仕入れた偏見だ!」

「マスター!」

「後でシメる!」

「あははははっ」

カイトは笑いながら、己を締め上げるがくぽの腕にきゅうっとしがみつく。まるでねこがごとくに陶然と擦りつかれて、がくぽは舌打ちを漏らした。

「……………ときどきおまえのことを、物凄く犯したくなるな」

「は?」

唐突に漏れた言葉に、カイトはきょとんと瞳を見張る。不自由な首を巡らせると、瞳を瞬かせ、戸惑うようにがくぽを見つめた。

「がくぽ、俺とヤりたいの?」

「たまにな。ひどく犯したくなる」

苦々しく吐き出し、がくぽは見上げるカイトの瞳を覗きこんだ。

同じ男だ。

同性愛嗜好はないはずなのに、カイトを見ているとひどくそそられることがある。そそられるというか、凶暴な気分に襲われることが。

この体を組み伏せ、服を肌蹴て、足を開かせる。

思うさま蹂躙し、嬲り尽くしたい――

「ヤりたいって、俺にツッコみたいわけ?」

苦々しく見つめるがくぽに、カイトは呆れたように言う。その呆れた様子に逆に救われ、がくぽは笑った。

「そうだな――さすがに困るだろう」

「あはは」

訊いたというよりは、念を押したがくぽに、カイトも笑う。

顔を戻すと、また無邪気にがくぽの腕にじゃれついた。

「がくぽ、趣味悪い」

「俺もそう思う」

天を仰いでさばさばと応じてから、がくぽは再びカイトを見下ろした。

青い髪の隙間から覗く耳朶が、ひどく赤い。腕に食いこむ指が痛いほどで、がくぽは瞳を見張った。

「カイト?」

「っ」

呼びかけながら、強引にカイトを振り返らせ、顎を掴んで顔を上げさせる。

頬どころかうなじまで真っ赤に熟れて瞳を潤ませたカイトの姿に、がくぽの目はますます丸くなった。

「カイト」

「っがくぽがっ」

驚きから言葉にならないがくぽに、打って変わって気弱な表情を晒したカイトが、吐き出す。

「がくぽが、ヘンなこと、言うからっ」

たとえそうだとしても、赤くなるのは違う。嫌悪に顔を歪め、もしくは青褪めるならともかく、こんなふうに赤らまれては――

「カイト」

「んっ」

考える暇もなく、がくぽはカイトの顎を掴んだ手に力をこめた。逃げられないように固定したうえで、薄く開いたくちびるにくちびるを落とす。

舌を押しこんで、やわらかく熱い粘膜を舐め回した。歯列を辿り、逃げる舌を追ってさらに深く差しこむ。

「んん……っ、んぅう…………っぁ……………っ」

「カイト………カイト」

腕の中のカイトが自分の足で立てなくなったところで離れ、がくぽは濡れたくちびるを舐めた。

「俺以外の男の前で、そういう顔を晒すなよ」

狂おしくささやきかけると、茫洋と潤んだ瞳のカイトは、それでも恨みがましそうにがくぽを見上げた。

「……………やっぱり、がくぽって、――ヘン」

キスの余韻で、吐き出された罵倒はわずかに舌足らずだった。

がくぽは小さく笑うと、濡れて染まるくちびるに再びくちびるを落とした。