踏みならされた道-第4話
「ぇ、ぐっ……、ちょ、なんで、まだ、また、ふと……っ」
「ぅ……っ」
感激したまでは良かったが、ダイレクトに体に反応が出た。らしい。
否、がくぽ自身、そこが脈打ったと知覚したし、挙句、さらに締めつけが厳しくなったので、わかった。
わかったが、直視し難い現実というのは、いつでもある。
びくりと背を仰け反らせたカイトの、悲鳴にも似た声に、がくぽはいたたまれず顔を逸らした。
自分で限界であると思っていたより、さらに限界は先のほうにあったらしいが、カイトだ。そんなものを腹の内に受け入れさせられている身だ。
ついでに言うならもはやこうなると、がくぽは自分の限界がよくわからなくなっていた。これ以上にはなりませんからとは、確信がなくて口にできない。
だからと、自分の本気はまだまだこれからですのでとも、茶化せる性質ではない。
ならば今、諸々を誤魔化すにもっとも容易い手段は、ひとつだ。
なにより『理由』が判明すれば、もはや欲望を堪えるよすがもない。
これは安心して、心から堪能してもいいことだとお墨付きが出たなら、さすがにがくぽの忍耐も利かない。
「かい、と……」
腰を掴む手にくっと、わずかに力を入れて強請ったがくぽだが、カイトはカイトで惑乱しているらしかった。背を反らしたまま、ぐすぐすと洟を啜り、くしゃりと自分の前髪を掴んで首を振る。
「ふとぃし、かたぃし、ふかぃし……っ!あげく、なんで、がくぽ………ちょーど、いぃのっ……?!こん、な、ふとくて、かたぃの…に……っ!なんで、ぉれの、よわぃとこ………びったり、あたるのぉお……っ!!」
「…っ!」
悲鳴――に、似ている。が、そこに悲痛さは含まれない。
嬌声というのは、そういえば悲鳴に似ているなと、思ったことをがくぽは思い出した。
童貞である(※処女でもある)がくぽがいつそんなことを考えたかといえば、口説いている期間、カイトに強制されたAV視聴の際だ。
ちなみに、なぜそんなことになったのかといえば、経験豊富な自分と付き合うなら『お勉強』をしなさいと、カイトに言われたわけではない。
ちょっとアタマを冷やすが良いわこの大ボケサムライがと、なんだかわりと酷い罵り方をされた挙句に、巨乳のおねぇさんから始まり、女子校生ものに、あれやこれやと多種多様雑多なそれを連続長時間視聴させられたのだ。
それで、これでなにがどう頭が冷えるんですかとがくぽが訊いたら、うんそうだね、おまえが末期かもしれないと俺もその反応で気がついたわと返された。
『つまり、おまえってそうか。視野めっちゃ狭いんだ、高スペック新型が。挙句体の反応まで俺限定品にするとか、才能が無駄遣い過ぎて、ほんとかわいそう……』
その後、口説く際のカイトの反応がずいぶんと緩和したから、おそらくあれで絆され始めたのだろう。
元来やさしいおにぃさんであるカイトは、『かわいそうなこ』に弱い。
なのでこれは、この恋の成就において非常に重要なターニングポイントであり、がくぽにとっては大事な思い出であるのだが、それはともかく。
嬌声というのは、悲鳴に似ているがそこに悲痛さを含まない、もしくは悲痛さの方向性や度合いが違うものだ。
と、がくぽは漫然と学習した。
そしてカイトの今の声は、それだった。
声の高さ、トーンが、悲鳴に似ている。訴えている内容も、苦情に近いものがあると思う。
もうひとつ言うなら、AV視聴の際にはふわりとした感想で終わったそれが、思いきりキた。全身だ。がくぽのすべて、思考から欲情から始まり、体の隅々に至るまで、隈なく走った。
「ひ、ぐ……っ!」
「かぃ、と……っ!」
走った快楽が末端にまで影響を及ぼし、がくぽはそこがぎちりと、限界の音を立てたような気がした。惑乱していたカイトもまた、びくりと痙攣し、信じがたいというように、結合部へ目をやる。
ああそうだ、そこが見たいのだと、がくぽはカイトの腰を掴む手に明らかで、あからさまな力をこめた。
どうしてもと言うなら、カイトが厳しく命じるなら、堪えることは五分五分程度の確率で、できないことはない。
けれど赦してもらえるなら――絆されたカイトはきっと、『かわいいがくぽ』のおねだりなら、十割十分の100%の確率で聞いてくれるものと確信しているが、ひと言、いいと言ってもらえたなら、もはや我慢したくない。
思うさま突き上げ、突きこんで、カイトを味わいたい。できるなら、体を反して組み伏せ、自分を受け入れるそこを晒し、つぶさに見ながら。
我が儘で、甘えだ。未熟を前面に出す思考だ。
けれど未熟も当然で、これが初めてのことなのだ。
筆下ろしというもので、これで未熟でなければ末恐ろしいにもほどがあるというものだし、それはさすがにカイトでも、『かわいい』とは評さないのではないか。
――と、がくぽはとりあえず、自分に都合のいい思考を今限定で、赦すことにした。
赦したうえでカイトの腰を掴み、撫でて、熱に浮かされて正気を飛ばす寸前の瞳で、見つめる。
「したぃ、です………かぃ、と………もう、……」
蕩けて覚束ない口ぶりで、強請る。強請りながらもう、腰が蠢き出す。
「ぁ、んんっ、んっ……っ」
深いふかいと、そうでなくとも言っていたのに、がくぽがずぐりと突きこんだことで、さらに奥深くを抉られる。
堪えきれずにへにゃりと姿勢を崩し、カイトはがくぽの上にしなだれた。胸元に当てた手がきゅっと丸まって、わずかに肌を掻く。
カイトが姿勢を崩したことで、いかになんでもがくぽのものも半ばが出た。
「カイト……」
堪えきれず、抱えて起き上がるがくぽに立てる爪を深くして、カイトはすりりと、しなだれこんだ胸元に額を擦りつけた。
「いー、よ、がくぽ……ぅご、いて……好きに、腰、うごかして………いたく、しても、いーから……」
とうとう姿勢が反転し、カイトはころりとベッドに転がされた。割り開いて受け入れる足を、掴んだがくぽが担ぎ、さらに広げる。
わずかに浮かせて下半身を掲げるようにすることで、ようやく、念願のそこを拝むことができた。
待望の、予測に違わない――否、想像よりもっと、はるかにいやらしく、痛々しく甲斐甲斐しく受け入れる赤めく襞の様子に、がくぽはくちびるを舐めた。
堪らない。
こんなにぎちぎちに限界まで拡げられながら、懸命にがくぽへの奉仕に勤めようと健気に蠢く在り様たるや、我慢のしようがちょっと、まるで思いつかないほどだ。
伸し掛かり、色濃く雄を香らせるようになったがくぽの、滴るなにかを陶然と眺め、カイトは淫蕩に崩れて、笑った。
「ぃたく、して、がくぽ………はげしくて、ぃたいの、………ぁくぽの、ふとくて、かたぃの……おれに、ちょぉだい」
「カイトっ……っ」
「ぁ、ふぁっ、あ、ぁああんんっ!」
背中を押すというレベルでなく、押し出されると同じ言葉に、もはや堪えようがなかった。
がくぽは煽られるまま腰を引き、打ちつけた。もとより狭くきつい場所だが、がくぽのものの質量、サイズ感というものがある。
ほとんど捻じ込むに似たそれだったが、カイトが上げたのは苦鳴ではなく、悲鳴に似ているが方向性や度合いが違うもの、嬌声だった。
割り開いた足が与えられる快楽に悶え、がくぽをさらに貪欲に味わい尽くそうと、体に絡まり締めつけようとしてくる。それを無理に割り開いて体を晒し、奥へおくへと狙って穿つと、カイトはぼろりと涙をこぼしながら首を振った。
「ゃ、や、だめ、め……っ、ぃっちゃ……っ」
言葉が終わらないうちに、ただ後孔を突かれただけで反応していたカイトのものから、白くぬめる体液が迸る。先にはがくぽの肌を濡らしたそれが、今度はカイト自身の体に掛かり、それでも止まず続けられる抽送に従って、広がりながらこぼれ落ちていく。
「ぁ、あ、ひぅっ、ぃ………っがく、ぁくぽ………っ!」
「いい、です………ぁあ、カイト……気持ちぃい………っ熱いのに、熱いのが、いい……っ」
求められた通り、求められたまま、容赦もなく激しく突きこみながら、がくぽはうわ言のようにこぼす。
奥を突かれたことで達したばかりのカイトは、少し休ませてやらなければ、きっと処理が辛いだろう。そうは思うが、止められない。むしろその先に、達かせてみたいという欲がこみ上げる。
カイトの上げる声は、相変わらず高く、悲鳴に似ている。おそらく、さすがに感覚が追いこまれ過ぎているのだろう。先よりも、さらに悲鳴に近い。
悲痛な色がどこか混ざっているのだが、それが堪らない。その悲痛さが、がくぽを煽る。
悲痛な色が混ざり、背を仰け反らせ、ぼろぼろと涙を流して悶え喘ぐカイトのさまは、がくぽの中枢を刺激した。
ああ、これではもう、事後に『かわいいがくぽ』と愛してもらうことはできないかもしれないと思いつつ、がくぽは刺激され、煽られる感情まま口を開き、カイトの首筋に食らいついた。
「ぁ、ひっ………っ、ぃ、………っっ」
単に咬みつかれるだけでなく、きしりと牙を立てられて、カイトのくちびるからは悲鳴すら漏れなくなった。きりっと軋らせながら歯を食いしばり、止めどなく涙を溢れさせる瞳を大きく見開いて、がくぽの暴挙によって飛びかけた駆動系を繋ぎ止める。
それがカイトにとって堪らない快楽であった証で、がくがくと激しく痙攣しながら、先に達して放り置かれていたものから、また白濁する体液が噴き出していた。
ぬめるそれに誘われるようにがくぽは体を倒し、カイトと肌を合わせる。抱きしめるようにして密着させ、突きこむ腰を深く、深い場所で止め、そこで穿った。
「ゃあ、ぉくぅ……っ、おくの、ぉく………っ、なんで、そんなとこまで、とどくっ………っ」
抱きしめたカイトの体が、痙攣をくり返す。顔を見れば泣き濡れて、憐れなほどだ。
その憐れさに誘われて、火が点いて、治まらない。
がくぽは深いところを穿ち、抉りながら、甘ったれるにも似たしぐさでカイトの耳朶にくちびるを辿らせた。がぷりと、やわらかく甘い肌にかじりつく。
「ひぅっ……っう……っ」
「カイト……カイト、だした……イきたい、だした、ぃ……カイトの、なかに………カイト………」
抱きしめる体から腕が上がり、がくぽの体に回って、背に爪を立ててしがみつく。
動きとしては不自由さを増しながらも、がくぽは構わずカイトの腹の奥を穿ち、掻き混ぜながら、『年上』の恋人に嘆願をくり返した。
「カイト……カイトの、なか……おくに、だしたぃ………っ」
「んっ………!」
強請りながら、許可を待たずに腰の動きを速めるがくぽの背に、カイトはさらにきつく、爪を立てた。
「ぃい、よ……おく……いちばん、ぉくの、ぉく………に、がくぽの………いっぱい、ちょぉだい……おれのおなか、ぃっぱいに、して」
許諾と、立てられる爪によって、背に走る電撃にも似たなにかの感覚と。
ふわりと立ち昇るカイトの、得も言われぬ淫靡な香りと、ささやかれる声の甘さと――
すべてが相俟って堪えることなどとてもできず、がくぽは求めたまま、赦された通り、カイトの腹の奥深くを穿ち、そこに思いの丈をたっぷりと吐き出した。
「ん、ぁ、ぁああ……っ!ぉにゃか、おく……っ、いっぱい、………っ」
吐き出される先であるカイトはうわ言のようにつぶやきながら背を仰け反らせ、きゅうっと目を閉じて感覚に耐える。
もっとも大きな衝撃をやり過ごすと、虚脱の中、カイトは力を失って伸し掛かってくる体をさらにきつく抱きしめ、陶然と笑った。
肩口に擦りつきながら、吐き出す。
「ぁくぽの、どーてー………ぇへっ!もらっちゃったぁ……………」