ろはろはろうぃー
がくぽは懊悩していた。
こんな些細な記憶を取り違えるとは思えない。しかし結果が結果だ。
結果が結果だが、取り違えたと思しい記憶はあまりに些細で、作為的に弄る理由も、ましてや他人によって操作される謂れもわからない。
もしもがくぽの記憶を操作できるとしたら、それは唯一、マスターだが――
「………っ」
がくぽはきゅっとくちびるを噛み、震える己の心に耐えた。
マスターは、ロイド保護官としての正義感からだけでなく、『がくぽ』を愛おしみ、大事にしてくれる。
がくぽが望まずして、記憶を操作することなどない。決して。
これは基幹たる思いだ。疑った瞬間に、世界のすべてが崩れる。
だから完全に、自分がひとりでなにかしら、思い違いをして――
「がくぽっ!!」
くちびるを噛み、リビングの扉口に立ち尽くすがくぽに、部屋の真ん中に仁王立ちしたカイトが叫んだ。
「ごめんねっ!!おかしもらったけど、やっぱりしたいから、イタズラしちゃった!!」
「っっ!!」
威風堂々、胸を張っての、力強い宣言――
がくぽは瞳を見開き、前衛芸術家気取りなカイトを見つめた。
すぐにその体から力が抜け、思わず床にへたりこみそうになる。
心の底から安堵して、がくぽはゲイジュツがバクハツしたリビングを眺めた。
がくぽの記憶によれば、カイトには確かにハロウィンのお菓子を渡したのだ。だから悪戯は控えろよという、言葉とともに。
だというのに、リビングのこの惨状。
まさか、カイトに菓子をやったその記憶が紛い物だったのかと――
「よかった………!やはりちゃんと、菓子は渡していた………!」
「んでもってイタズラしたらおなかすいたから、おやつちょーだい、がくぽ!!さもないと、アバレるぞ!!」
安堵のあまり頽れそうながくぽに、反省皆無のカイトが力いっぱい飛びついた。