「ん……んちゅ……ぅ……ふぁ」
舌を閃かせ、手で扱き、懸命にがくぽのものを舐めしゃぶりながら、カイトは軽く眉をひそめた。
疲れた。
まぐろの気持ち
「はふ………っ」
「カイト……」
「んんっ」
少し離れてだらりと舌を垂らしたら、がくぽに心配げに呼ばれた。
カイトは首を振って続行の意思を示し、熱を持ってもまだまだ、限界に達しそうにないものを口に咥える。
がくぽのものなら舐められる、と言ったが、カイトはこれまで、実際にがくぽのものを舐めたことがなかった。
始まってしまうと、がくぽのほうがカイトに触りたくて押しまくるため、カイトからがくぽになにかする隙がないせいだ。
やんやん言って、気がつくと絞り取られただけで終わっている。
がくぽはカイトのものを頻繁に舐めるが、自分のものを舐めさせたい欲求はないらしい。
舐めてくれと乞われることもないため、ますますもってカイトは寝転がって、やんやん言うだけになってしまう。
「そぉゆうの、『まぐろ』っていって、よくないんだって!!」
恒例の夜の絵本読みも終わってマスターが自室に引き上げたあと、いつもの通りにキスが始まった。
そのキスがエスカレートしてなにかしらの行為に結びつくのはこのところの日常で、今日もカイトはあっという間にパジャマのボタンを開かれた。
しかしいつもなら身悶えているだけのカイトが、今日はがくぽを跳ね飛ばし、そう叫んだ。
跳ね飛ばされて叫ばれたがくぽのほうは、二重三重に頭を抱えた。
体の関係を重ねても、カイトのいたいけさ加減は変わらない。中身は相変わらずお子様だ。
そのカイトが「まぐろ」などと言いだし、その意味もわかっているとなれば。
「鋺-かなまり-か」
「そだよ!」
重々しくつぶやいたがくぽに、カイトはあっさり頷いた。
がくぽとはいまいち相性の合わない鋺だが、カイトのほうはすっかり仲良しだった。
おそらく、精神的な傾向が似ているのだ。悪戯大好き、という点で。
「友達は選びなさい」は、ひ○こくらぶの「子供に言ってはいけない言葉」ランキングにも入っていたから、がくぽは懸命にその言葉を飲みこんでいる。
飲みこんでいるが、言いたい。
どう考えても、カイトに悪影響だ。友達は選べ。
「…………まぐろは美味いだろう。カイトはまぐろが嫌いか」
「?」
誤魔化すためにあさってな言葉を返したがくぽに、カイトはきょとんとした。
がくぽは苦々しさに歪む瞳を逸らし、素知らぬふうに言葉を続ける。
「刺身にしろ漬けにしろ、歓んで食べるだろう。この間、生姜焼きにしてもらったら、それも美味いと言っていた」
「うん、おいしかった!」
ようやくがくぽの話が飲みこめたカイトが、あっさりと機嫌を一転させ、うれしそうに頷く。
「俺、なっとーきらいだけど、ぶつなっとーなら食べられるよ!」
「そうだな。マスターの作るぶつ納豆は絶品だ」
がくぽも納豆嫌いだったが、マスターが酒のつまみにと作っていたぶつ納豆を試しにつまんでみて、その意外な美味しさに驚いた。
それからは納豆が単品で出てきてもなんとなく食べられるようになり、「好き嫌いを克服できるなんて、おまえはすごいな!」とマスターにも褒められた。
ほのぼのした記憶に笑い合ったところで、カイトは表情を一転させた。
「ちっがぁああああうっっ!!」
「ちっ」
誤魔化されなかったカイトに、がくぽは素直に舌打ちを漏らした。
跳ね飛ばしたがくぽの向かいに座るカイトは、拗ねているとき特有の据わった目だ。
「まぐろはおいしーし好きだけど、その『まぐろ』じゃないっ!ヤってるときにねっころがったまんま、あんあん言ってるだけの、俺みたいなのいうんだよ!!」
「ちっっ」
やはり正確に意味を理解していた。
がくぽは痛烈さを増した舌打ちを漏らし、おそらくそういった知識を植え込んだであろう、鋺を呪っておく。
誤魔化しが通じないなら、直球で行くしかない。
ひ○こくらぶにも書いてあったが、下手な誤魔化しより、手痛い現実のほうが、意外にも子供の心の傷は小さいという。
「俺はカイトが『まぐろ』で、まったく構わない。おまえがあんあん言っているのを見ているのが、好きだ」
しっかりとカイトの瞳を見据えて直球で言い切ったがくぽに、カイトは胸を逸らした。
「俺がかまう!」
きれいに打ち返された。おそらくホームランボール。
負けじと打球を探すがくぽに、カイトは布団の上を這って近づいた。
「俺だってがくぽのこと、気持ちよくする。がくぽのこと、さわる!」
「……っ」
わずかに仰け反るがくぽにさらに近づき、カイトはべろりとくちびるを舐めた。
「さわらせろ」
「………っ」
暗闇でも炯々と光る瞳に押され、がくぽは顔を逸らした。
しばらく考えてから、気弱になった瞳をカイトへと戻す。
「………なにがしたい」
降参したがくぽに、カイトは強請っている中身とあまりにちぐはぐな、無邪気過ぎる笑みを浮かべた。
そして強請ったのが。
「舐める!!」
――だったのだが。
「んん……く……はむ」
「カイト」
「んーんっ、んんっ」
明らかに疲れてきているカイトに、がくぽが気忙しげな声を上げる。しかしそのたびにカイトは首を振って、頑固にがくぽに食らいつく。
とはいえ正直に言うと。
疲れた。
地味に舌が痺れるし、顎が痛い。ややして滲んできたものはヘンな味だし、いつになったら終わるかわからないし。
「ぷはっ」
「なあ、カイト……」
「んーむぅ……っ」
とうとう口を離して考えこんだカイトに、がくぽは軽く天を仰ぐ。
予想通りだが、カイトは下手だった。下手でもかわいさで補うが、どうしても限界に到達するのに時間がかかる。
カイトも辛いだろうが、がくぽもかなり我慢を強いられていた。もどかし過ぎる。
それでも、ここで無理に押し切るとあとあと、カイトが拗ねて大変だと思えば、耐えてきたのだが。
「カイト」
「んっ、ぉしっ」
「カイト?」
なにか打開策を思いついたらしいカイトが、力強く頷く。
あまりいい予感がしないがくぽは、恐る恐ると呼んだ。しかし、さらっと無視される。
完全に体を起こしたカイトは、まだ羽織っていたパジャマの上を脱ぎ捨て、躊躇いもなくあっさりと、下も脱ぎ捨てた。
きれいに裸になってから、自分の指を口に咥える。
「おい?」
やろうとしていることが薄々わかって、がくぽはわずかに身を乗り出した。カイトは構うことなく、濡らした指を自分の下半身へ伸ばす。
「んんっ」
「……っ」
がくぽはごくりと唾を飲みこんだ。
カイトは濡れた指を窄まりに当てると、いつもがくぽがやっているように、ぐ、と押しこむ。違和感が走って震えたが耐え、ぐちゃぐちゃと掻き回した。
「ぅ……っは…………あっつ………っ」
顎も舌も疲れてうんざりしていても、大きくなるがくぽのものを間近に眺め、その熱を感じていた。
これが自分の中に押しこまれて暴れているのだと、そこはかとなく意識していた。
そのせいで、体の奥はくすぶって熱くなっている。
不慣れな自分の愛撫でもすぐに溶け解れて、物足らなさを訴える痺れが走った。
「は………っ、が、くぽ………」
「……」
腰を浮かせて自分で奥を弄るカイトを凝然と眺めていたがくぽは、呼ばれて再び、唾を飲みこんだ。舌が覗き、渇くくちびるを舐める。
欲に歪みながらもカイトは無邪気に笑って、そんながくぽへと近づいた。
「こっちで、する」
「カイト……」
「ぜったいイかす………!」
「……」
なにかの決意を固めているカイトから、がくぽはわずかに視線を逸らした。
確かにカイトは「まぐろ」だが、別にがくぽだとて気持ちよくなっていないわけではない。腹の中外に熱をぶちまけては、どろどろに汚している。
それが不満だと訴えたわけでもなく、なにをこうまでカイトが意地になっているのかがわからない。
わからないが、炯々と瞳を輝かせるカイトは、いつもとまた違った趣で、美しい。
「ん……」
視線を戻したがくぽに、カイトは膝立ちになる。がくぽに跨ると、中途半端に煽った熱に手を添え、そっと腰を落とした。
「んく……ぅ……っ」
小さく呻きながら、飲みこんでいく。
途中途中で休んでは首を振り、ずいぶんと時間は掛けたものの、どうにかこうにかひとりで飲みこみきった。
「は………はぃ……った………っ」
「ああ」
「ぅく……っふか……ぃ……っ」
いつもは、寝転がして入れているだけだ。自分の荷重分、深く飲みこんでしまうことに、カイトは顔を歪めてがくぽに縋った。
びくりびくりと震える体を抱いて、がくぽは軽く揺さぶる。
「が、くぽ…っ」
「入れただけではイけないだろう」
「わか……ってる…ったら………っ」
呻きながら答え、カイトはがくぽに縋りながら、腰を動かし始める。
しかしともすれば崩れ落ちそうになっているため、動きはぎこちなく、あまりに緩やかだ。
「く…っ」
「ぁ……っ」
懸命に堪えていたがくぽだが、抱くカイトの腰に爪を立ててしまった。カイトがびくりと引きつり、それから体を崩れ落ちさせる。
がくぽに縋って、頭を擦りつかせた。
「が、くぽ……ぉっ」
上がる声が、涙に歪んでいる。垂れるがくぽの髪を掴んで引っ張り、カイトは洟を啜った。
「して……っ。も、だめ……だよぉ………じんじんして、うごけなぃい………っ」
「っう……」
「ぁあんっ」
強請った途端に強く突き上げられ、カイトはかん高い悲鳴を上げた。
ここまで散々に我慢を強いられた分、がくぽの動きはいつにも増して激しく、荒っぽかった。
「ゃああっ、ぁんっ、そんな、っぁんっ、ふぁあっ」
「カイト…っ」
上に乗ったまま、突き上げられている。いつもより深いところまで勢いよく抉られて、カイトは惑乱して泣き叫んだ。
斟酌してやることも出来ないまま突き上げ、がくぽは一際強く、カイトの腰を掴む。
「イくぞ……っ」
「ぁああっ」
痛みと同時に走った感覚に、カイトは仰け反って震えた。締めつける中に、がくぽが熱を吐き出していることを感じる。
灼かれるような感触に、怯えとともに胸にこみ上げたのが果てしなく安堵で、カイトはいつも以上にぐったりと脱力して体を崩れさせた。
「………カイト」
「んにゅ……」
すでにおねむ状態のカイトを膝の上に、がくぽは躊躇いがちに声を掛ける。
もう一度したいが、それ以前に。
「………今日は、どうした。鋺に、なにを言われた?」
「ん………?」
がくぽがまだ入ったままだということもものともせずに、半分寝こけているカイトは軽く首を振った。
その手ががくぽの背に回り、きゅ、としがみつく。
「カイト」
やさしく促されて、カイトはがくぽに擦りついた。
「………『まぐろ』って、あきられて、すてられちゃう、原因のいちばんなんだって」
「…っ」
眠そうな声でつぶやかれる内容に、がくぽはくちびるを引き結んだ。
「俺、がくぽとずっといっしょにいたいもん………だから………」
「捨てない。飽きない!」
吐き出される言葉に、がくぽが返した声は悲鳴じみていた。
力なく凭れる体をきつく抱きしめ、がくぽはくちびるを震わせる。
「そんなことで、飽きたり捨てるようなことは、絶対にない。絶対だ。絶対にだ!」
素直に転がされて、甘え声で啼いているだけで、十分満たされるのだ。
たまに、だめだとか気分じゃないとか言いながらも、最後には折れて、結局がくぽを受け入れてくれる。
そうやって押し切ったあとでも、また無邪気に笑いかけてくれる。
することだけが目的で、いっしょにいるわけではない。募る想いが体を求めるだけで、傍にいること、それがもっとも重要なことなのだ。
友達は選べ、とは、言わない。
言わないが。
「俺のほうを、信じろ。周りの誰に言われることより、俺のことを。おまえを求める、手を伸ばす俺を信じろ」
呻いたがくぽに、背中に回されたカイトの手に小さく力がこもった。
「ん。しんじる」
「…っ」
素直に言葉が吐き出され、その響きに、がくぽは呆然とした。
カイトの言葉に、嘘も虚飾もない。常々、身に沁みていればこそ。
「………カイト」
「んー……ねむぃー……」
「したい」
「ねむいってば………」
「したい」
「もー………」
我が儘放題して好きなように押し切るかと思えば、こういうときのおねだりに限って、カイトは諦めて受け入れてくれる。
眠気にぼやける顔を上げ、カイトは軽く腰を揺さぶった。
「でも次は、がくぽがする。俺、ころがってるからね」