膝の上に背後からイトを抱えたところで、がくぽはふっと首を傾げた。
「俺はイトの夫でカイの嫁だが、同時にイトはカイの夫で、カイはイトの嫁だったな?」
ミーシャとお人形のおうち-01-
「ん、ぁ………?」
「ぅん。そぉだよ?」
――膝に抱えられたイトのほうは満足に応答出来なかったが、対面に座るカイが頷いた。素直な反応だが、唐突な問いに対して不思議そうな色がある。
なぜ不思議そうだと、がくぽは視線だけで軽く天を仰いだ。
一文にまとめても――いや、一文にまとめればより以上に、がくぽとカイとイト、三人の関係の複雑さと不可解さをまったく損なうことなく、理解不能ぶりを遺憾なく表しているというのに。
しかしそこにツッコむことは無意味以上に、無駄かつ無能の露呈ですらある。
賢いがくぽは言葉を飲みこんで、代わりに微妙に逃げ腰なイトをきつく抱え直した。
「っゃ、あっ、ふかぁっ」
「ふぁっ」
びくんと跳ねてかん高い声を上げたイトに釣られ、カイのくちびるからも甘い声が漏れる。
イトは『膝の上』だが、カイは対面に座っている『だけ』だ。
がくぽは苦笑し、イトを抱える腕に力を込めつつ、カイの様子を観察した。
夜、布団の上だ。
天井照明は消して、枕元の小さな灯りだけが点いている。暗いとは言わないが、まったく明るいとも言わない。
その、ほんのりとした間接的な灯りの中で見るカイは、いつも以上に甘く、とろりと蕩けて見えた。照明の効果も大きいが、光の加減だけが理由ではない。
寝るために着たパジャマを脱がされて素肌を晒すカイは、羞恥から仄かな色に染まっている。無邪気さや稚気さは消えきらないものの、それが反って背徳的な色香となって、恥じらうカイを淫靡に飾っていた。
足を崩して布団の上に座るカイは、それとなく局部を隠そうとして、もじもじと動いている。下半身に関しては試みがうまく行き、恥ずかしい場所は手の下に庇われて見えない。
しかしその上、さっきがくぽが散々に吸って舐めて嬲ってやり、ぷくんと勃ち上がった胸の突起は、うまく隠せない。もじもじ動く腕にたまに隠れるが、概ね見えたままだ。
確かにカイは男で、胸には肉がない。女性とは違って、どんなに揉んでもぺったりのっぺりしたまま、断崖絶壁だ。目に愉しいかと問われれば――
だがくり返すが、先にがくぽはカイの胸を散々に吸って舐めて嬲り、甘い声で啼き喘がせ、悶えさせた。
その結果として朱を増し、ぷっくりと勃ち上がった胸の突起は、土台ののっぺりとして肉がないこととの対比が鮮やかで、逆説的に淫猥さが増す。
またしゃぶりたい欲求に駆られて、がくぽはちろりとくちびるを舐めた。
「ぁ、ね………っ、も、………っかむぃ……くぽっ…………っ」
「………お主もいい加減、律儀よな」
膝の上のイトに涙声で強請られ、がくぽは多少呆れてつぶやいた。
涙に掠れて喘ぎながらも、イトは常と同じくフルネームで、がくぽを呼ぶ。どこでそう呼ぶようにインプリティングが為されたものか、それにしても強力だと、呆れればいいのか感心すればいいのか。
そんな場合かという話だ。イトにとっては。
がくぽの『おひざ』が大好きなカイとイトだが、今のイトは単純に抱えられているわけではない。相方と同じくパジャマを剥がれ、丸裸にされたうえで、同じく寝間着を脱いだがくぽに背後から抱えられ、膝の上だ。
裸のスキンシップといえば、なにかが聞こえよくなる。物は言いよう、言葉の妙だ。
閉じようとしても、それとなく回されるがくぽの手によってイトの足は割り広げられ、局部を隠すことを赦されない。
太く硬く熱く滾ったがくぽを飲みこみ、限界まで開いてひくつく襞が隠しようもなく、目の前に座るカイの視線に晒されている。
仄明かりの中なら、どうせつぶさに見えないからいいだろうという話ではない。見えている見えていないではなく、見せていることと見られていることが問題なのだ。
「も………っ、はゃく……っぅ………っ」
――いつもはちょっぴりやんちゃで生意気で、喩えて言うなら、お偉いおばかさまが、イトだ。
しかし今は力なく、弱々しく強請って、がくぽの顎に媚びるキスをくり返す。
比べたときに、快楽や、それに伴う羞恥に弱いのはイトのほうだ。こんなえっちなのだめと、神威がくぽのえろえろヘンタイどすけべと、ちょっとのことですぐに泣いて、がくぽを詰る。
カイは違う。素直に受け入れて蕩け、むしろもっともっとと、強請りすらする。普段の様子まま、おっとりほわんと快楽にも染まるのだ。
ある意味でイトは、普段とのギャップが大きい――どちらかといえば、まずい方向で。
そうでなくとも押している、がくぽのアレ的な嗜好をどツボまで押すような。
「………気持ちいいか、イト?」
「ん……っ!んっ!きもち、ぃ………っきもち、ぃ………からっ」
「ぅん。いっちゃんのおしり、きゅうきゅうして、がくぽのことおいしーおいしーって。すっごく気持ちよさそうに、もぐもぐしてる」
「っふ、ぅわぁああんっ、いうなぁ見るなぁっ、カイっ!!」
微妙に身を乗り出して観察し、蕩ける声で報告してくれたカイに、イトはぐっすんと洟を啜った。仄かな色味だった肌が、爆発的に赤く染まる。
慌てて手をやって隠そうとしたイトだが、さりげなくがくぽに押さえられ、どころかますます見えるようにと足を広げられた。
「っ神威がくぽっ!っっひっ?!」
羞恥が過ぎた涙目で睨んだイトに、がくぽはにっこりと笑い返した。非常に爽やかで、好青年ぶりの際立つ笑みだった。そういう状況かという話だ。
思わずびくりと引いたイトの腰を抱えて殊更に捻じ込み、こうとなれば胡散臭い以外のなにものでもない笑みまま、がくぽはちょこりと首を傾げた。
「お主は気持ちいいと言うがな、イト。俺はまだ足りん」
「っだから、動けって、動いていいった………」
「話は戻るがな。お主ら、俺が初めての相手だったな?」
「ちょっ……!」
「ふゃ?」
強引に話題の転換が図られたが、どこからどう、どこに戻った話なのか、イトにもカイにもわからない。
抗議にじたじた暴れるイトを器用に、かつ容赦なく押さえこんだまま、がくぽはきょとんとするカイへ視線をやった。正確には、もじもじもぞもぞと隠されている、下半身に。
「俺とするまで、したことがなかったのだろう?入れる入れないどころか、互いに握り合うことすら」
「ぁ。………あー…………」
言われる先に理解が及び、カイの表情は羞恥に歪んだ。
訊かれているのは要するに、がくぽと今しているような、閨ごとの経験だ。閨ごとと言わないまでも、自慰の延長のような、二人遊びの経験――
カイはほわんと目元を染めると、おずおずとした上目になってがくぽを見た。幼いしぐさでこっくんと、頷く。
「ぅん」
「ゃっ、なにっ?!ふとくなったっ?!っぁ、ゃあっ………っ!」
びくんと跳ねて叫んだイトの腰を、がくぽは強制的に戻した。そのうえで潤むイトの瞳にくちびるを寄せ、こぼれそうなほどになったしずくをやわらかに舐め取ってやる。
「俺の限界がどこまでか、もう知っていようが、イト。まだまだなのだから、いちいち騒ぐな」
「ゃだぁ………っ」
やさしいしぐさに見合わない容赦のない言葉に、イトはぐっすんと洟を啜った。懇願と嘆願を込めて、背後のがくぽに縋るように体を捻じる。
「………で、えと、それがなぁに?僕といっちゃんが、がくぽが初めてだと、だめ?」
体を捻じってもひねっても、がくぽはイトの足を開かせ、結合部を見せつける。どうしても視線を呼ばれ、釘づけとなりながら、カイは微妙な懸念を吐き出した。
「駄目と言うかな」
ちゅっちゅと、媚びるキスをくり返すイトの胸の突起をつまんで転がしつつ、がくぽは一瞬、視線だけで天を仰いだ。
だから、関係が複雑を極めて理解不能なのだと。
ツッコむことも説明することも、無意味以上に無駄かつ無能の露呈だ。わかっているから、賢いがくぽは言葉を飲みこむが、それはそれでこれはこれ。
諦めがつくかつかないかは、また別だ。
「お主ら、夫婦だったのだろう。いつからかは知らんが……」
「ん?『だった』じゃなくて、今もそうだよ?いっちゃんと最初に会ったときから、ずっと」
「良し、要らん情報がまた増えた!」
がくぽとイトの結合部に集中し過ぎて、カイの意識はちょっぴり、他ごとがお留守になっている。
お気遣いも配慮も思いやりもなく、あっさりと即答されたがくぽは、自棄になって吐き出すしかない。
聞けば聞くほど理解不能が極まっていく、カイとイトの不思議ワールドだ。
だからといって、聞かなければいいという話ではない。怖い話ほど、なぜか聞きたくなる心理だ。もしくは、ねこをも殺す好奇心。
さもなければ聞かないほうが怖い気がする、絶妙な強迫観念。
「んっ、なんでぇ………っ!またぁ………っふとく、なったぁ………っもぉ、むりぃ……っ」
「ね。びっくんて、した。ぁは、がくぽの………いっちゃんのおしり、ぎっちぎちで、ほんとにこわれちゃぃそぉだよ?」
「ゃだぁ………っ!」
「ぁ、また。いっちゃんのおしり、きゅうってなった。ね、がくぽのでいっぱい、もぉぎちぎちなのに、もっともっとって、おねだりするみたい。きゅうきゅうして、いっちゃんのおしり、すっごくえっちっ………!」
「ぅわぁあん、カィいいい…………っ!」
――補記しておくと、カイにイトを虐めるつもりはない。
カイは気持ちいいことが好きで、素直に蕩ける性質だ。もうひとつ言うと、自分が気持ちいいことももちろん好きだが、相方がとろとろに蕩かされて気持ちよくなっているのも、大好きだった。
自分ひとりが気持ちいいよりももっと、余程に夢中になる。
無自覚なまま、天然無邪気なSと化したカイに、がくぽはわずかにくちびるを綻ばせた。
無邪気に淫らごとに夢中になり、とろりと蕩けるカイは愛らしく、突き抜けて愛おしい。
そして、強請りながらも怖いと泣いて、容赦を乞う、普段とあまりにギャップのあるイトも――
綻んだがくぽのくちびるから、ちろりと舌が覗く。興奮を宥めるように、煽るようにくちびるを湿らせると、がくぽはイトの足を殊更に大きく開かせた。
「っゃあっ、ぁっ!」
「ひゃあん………っ」
恥ずかしさにイトが悲鳴を上げたのみならず、釣られたカイの上げる声もまた、非常に甘い。
耳からも心地よさに浸りつつ、がくぽは閉じようと暴れるイトを抱え直した。
「つまりキス止まりだな。………なんの夫婦だ」
慨嘆したがくぽは、さらにイトの足を開く。
「ゃだぁっ、っむぃ、がくぽっ!」
「ぁ、あ………がくぽっ!あのね、ね……いっちゃん、やさしくして上げてっ!ねっ?!」
イトが本気で泣きが入り、カイは慌てて腰を浮かせた。がくぽの首に腕を回すと、宥めるように強請るように、ちゅっちゅとやわらかなキスをくり返す。
イトはどうしても、がくぽの嗜虐的なツボを押す。日常の、お偉いおばかさまなときもそうだが、こうして体を開いたときには、特に顕著だ。
性的なことに不慣れで怯えるそのギャップが、かえってがくぽの嗜虐傾向を加速させてしまう。
最終的にはやさしくするが、イトに対してはどうしても、途中途中で苛み方がきつくなるがくぽだ。カイも心得ていて、がくぽが過ぎると思うとこうして、止めに入る。
それで止まるがくぽかと言うと、――微妙な感はあるが。
「ね?がくぽ………ぉねがい」
「ん」
嘆願をくり返しながら降るキスを受け、がくぽはわずかに目を眇めた。
イトの足を開いていた手が離れ、カイの腰に回る。抱き寄せれば、当たる熱がある。腰から手を滑らせれば、とろりと蕩ける蜜壺が。
「ぁ、ん………っ」
「カイ。俺が好きか?」
ぴくんと震えたカイの腰を撫で回しながら、がくぽが訊く。
与えられる快楽に表情を甘く崩しながらも、カイはその中に不思議そうな色を混ぜた。
「ぅん。好きだよ?」
どうして今さら訊かれるのか、わからないといった顔だ。
がくぽは笑って、わかりやすく首を傾げてみせた。
「では、イトは?好きか?」
「うん。大好き」
「っゃあぁっ、びくんってしたぁっ!」
カイの即答に、イトの悲鳴が重なる。
がくぽは至極冷静に、イトの後頭部を掴んだ。自分へと顔を向けさせると、揺らぐ瞳を覗きこむ。
「違う。今のはお主が締めたからだ」
「おれが悪いのっ?!」
「締められて反応しないほど、鈍くも枯れてもおらん!」
「おれが悪いのかよっ!!っぁ、ひゃぅっ!」
堂々胸を逸らして主張するがくぽに、イトは涙目でがなる。その腹を撫でるふりで、殊更にきゅっと押して中にあるものを意識させて言葉を封じ、がくぽは目を丸くしているカイに視線を戻した。
「夫婦となるくらいな?」
「え。………うん。でもがくぽも、僕の大好きで大事なお嫁さんだよ?」
「ぁ。ちょっとんぐぐっ!!」
――無神経にも、男の沽券に関わるようなことを言おうとしたイトの口に、がくぽは無情に指を突っこんで黙らせた。
心配そうにイトと見比べているカイへ、爽やか胡散臭い好青年笑顔を向ける。
「それはとりあえず、置いておいて」
「え?でも、大事な………」
「したが二人とも、俺とが、最初なのだよな?」
「うん?」
「そして今も、夫婦なのだな?きちんと、好き合う」
「………ぅん」
強引に話を進めるがくぽに、カイはきょとんとしながらもとりあえず頷く。
無邪気だ。自分と年の同じくらいの、成年男性であるとはとても思えない。
がくぽの笑みから爽やかさが削げ落ち、淫靡に染まった。
「ぁ………」
陶然と見惚れたカイに、笑みを淫靡に染めたがくぽの声はやわらかく、やさしかった。
「カイ。ただ見て待つだけでは、詰まらなかろう。お主がそれだけでも、十分に濡れ溶ける好きものだとしてもな。……………『嫁』として、イトを気持ちよくしてやりたくはないか?俺が手伝ってやるゆえ、カイ。ついでにお主も、これ以上なく悦うしてやろう」