役員が出払った、放課後の生徒会室――に、いるのは、生徒会長であるカイトと、その『監視下』に置かれている問題児、がくぽの二人きり。
キューティQの事情
どうしてまた、こうも無防備に、『問題児』と会長を二人きりにするか、とがくぽは呆れる。お世辞にも、たくましいとか勇猛とかいう言葉とは縁遠い、華奢で愛らしい会長だ。
その華奢で愛らしい会長は、なにやら資料とにらめっこ中で、こちらも『問題児』に対する警戒心、ゼロ――まあ、問題児と言っても、たかが知れている。
禁止されている長髪を貫き、ネクタイは解けて襟は開き、ごく頻繁に授業をさぼり、たまに他校生を叩きのめしているだけだ。十分な気がしてきた。
思考を弄びつつ、がくぽはじっくりとカイトを眺める。
机を挟んで、向かい合うカイトを存分に眺められる、特等席。
二人きりだ。
そして、カイトは資料に夢中だ。
そうやって丹念に眺めても、誰にも咎められない。
「んー」
小さく唸っている。
眉間に皺。
そんな悩ましい顔、しないでくれないか。
――こちらを、少しでも、見てくれないか。
人の声が遠い。気配もない。二人きり――
思いが募って、がくぽは腰を浮かせた。
ちゅ、とくちびるにキスすると、カイトは資料から顔を上げて、きょとんと見つめてきた。
その反応はアリなのか?と思いつつも、極力平静な顔で見返していると、カイトはそのまま、首を傾げた。
「なに?」
――その『なに』は、『なに』に掛かる『なに』だ?!
内心、激しく動揺しつつも、がくぽは口にも表情にも出さない。
ただ、余裕ぶって、にんまりと笑って見せた。
「会長が、かわいかったからな」
「…」
しゃあしゃあと吐き出すと、カイトはさらに瞳を瞬かせた。
だからその反応はどう捉えればいいのだ?!
沈黙にめげかけつつ、がくぽはあくまで平静な顔を保つ。
しばらくそんながくぽを眺めていたカイトは、なにかしら納得したように頷いた。
再び手に持った資料へと目を戻し、つぶやく。
「かわいーとキスして貰えるなら、できるだけかわいくしていよう」
「?!」
なにを聞き間違えたか、と瞳を見張るがくぽに構うことなく、カイトは資料にペンを走らせていた。