「さて、転校生。もしくは神威がくぽくん。主張したいこと、ある?」

斜めに見下ろすがくぽに臆することなく、どう見ても愛玩動物な見た目の生徒会長が訊く。

穏やかな笑みがその表情を彩っていて、思わずほだされそうになる自分が微妙だ。

がくぽは殊更に斜めを向き、くちびるを引き結んだ。

Boy Meets...

転校して、初日。

すでに生徒会室に呼び出されている現状――は、予測通りだ。

なにしろがくぽの恰好はお世辞にも、まっとうな高校生ではない。

縛ってはいても、腰まで届く長い髪。崩したネクタイと、首元を大きく開いたワイシャツ――

「主張したいことがないなら、今この場で、バリカン掛けるけど」

「…」

穏やかな笑顔と声で、会長が吐き出す言葉には容赦がない。

どう考えてもこの愛玩動物が、武道を極めた自分を押さえこんでバリカンを掛けることなど無理だと思うが――どういうわけか、無視できない、迫力がある。

「願掛けをしている」

吐き出した――嘘ではない。誰も信じないが。

「カイ兄ぃ」

「会長って呼ぶ、レンくん」

斜めに吐き出された言葉に、役員の一人が声を上げたが、会長は明後日な返事をして、がくぽを見上げた。

穏やかな瞳が、じっとがくぽを見つめる。

ガンをつけられるなら、決して逸らさず見返すのが、がくぽだ。その結果として生まれる乱闘も、きっちり制してきて、今日がある。

それでも、妙な迫力を備えた会長との睨み合いには、心が折れかけた。

――ところで、彼が華やかな笑みを浮かべ、唐突に睨み合いは終わった。

「ん、わかった。いーよ。バリカンは勘弁してあげる」

「かーいちょーぉっ」

非難の声を上げる役員に構わず、会長は瞳を見張るがくぽを愉しげに見上げた。

「ただし、条件はあるけどね?」

「なんだ」

油断せずに訊いたがくぽに、会長は、ぴ、ぴ、と指を立てた。

「君、頭いーよね。だから、これから先のテスト、必ず、成績は上位三位以内に入ること。それから、週に二回は生徒会室に顔を出す。とりあえず、再教育を施してるっていう面目が必要だからね」

「実を結ばない面目か」

鼻を鳴らしたがくぽに、会長は華やかに笑った。

「君は俺の監視下に入るの。実を結ぶかどうかが問題なんじゃないよ。『俺が預かってる』っていう態度が大事なの」

「…」

自信たっぷりな言葉が不可解で、がくぽは訝しく会長を見下ろす。

会長は笑って、がくぽの頬に手を伸ばした。ぴた、と軽く叩く。

瞳がやけに甘く、がくぽを見つめた。

「それから俺のことは、『カイト』って呼ぶこと。以上三つ、守ってね?」

それが、生徒会長、始音カイトとの、出会いだった。