鏡の中。
ふと、晒した首に、目が行った。
「………薄くなった、な」
撫でる、その場所――痕が消えても、感触は、消えない。
ドギー・ドッグ・タグ
「あ、がくぽー。いーこにしてる………っあれっ?!」
教室移動の最中なのだろう。教科書やら一式を持ったカイトと廊下ですれ違いざま、笑って声を掛けられた。
がくぽはその言葉がすべて吐き出される前に、華奢な肩を掴み、手近な空き教室に引きずりこんだ。
「がくぽ?って、わ、ぁ?!」
壁にカイトを押しつけ、きっちり締められたネクタイを乱暴に緩める。手早くボタンを外して襟を開き、常に隠されている首を曝け出させた。
「ね、ちょっと………んっっ」
戸惑う声を上げる体が、びくりと強張る。その手から、ばさばさと教科書が落ちた。
「ぁ……ぁっ、んぅっ」
教科書を落として空いた手で、カイトはがくぽに縋りつく。晒した首にねっとりと舌を這わせ、牙を立てて吸いつく男に。
「ぁ………ゃう………っ」
がくがくと震えるカイトを抱いて支え、がくぽは一際強く、肌を吸った。
「ぁあ……っ」
甘い声で、カイトが啼く。
その白い首にはっきりと浮かんだ鬱血痕を舐めてから、がくぽは力を失って縋りつくカイトを覗きこんだ。
「『首輪』を貰いに来たぞ」
「……?」
熱っぽく潤む瞳で、カイトは不可解そうにがくぽを見る。
がくぽは髪を掻き上げ、常に晒している首を見せた。
「外れたら言えと言ったのはおまえだろう。付け直すからと。そろそろ外れる。付け直さないと、暴れるぞ」
「……」
カイトは瞳を瞬かせてがくぽを見つめ、がくぽが晒した首へと視線をやり、それから、ふわ、と甘く笑った。
「………首輪、されたいの、がくぽ?そういう趣味?」
「おまえだけだ」
からかわれても、がくぽは真面目に告げる。花色の瞳が、鋭くカイトを見つめた。
「おまえにだけ、赦そう。俺に首輪をつけ、従えることを。おまえ以外には、決して赦さない」
「………もぉ」
真摯に吐き出される言葉に、カイトの笑いが苦笑に変わる。胸に縋っていた手が伸びて、がくぽの頬を撫でた。
「仕方ないやつ…………首輪してたって、おとなしくなんかしないくせに」
詰りながら、カイトはくちびるを近づける。寄せられたがくぽの首に、きつく吸いついた。
牙を立ててから離れ、ちろりと舐める。
そこに浮かぶ、鬱血痕。
「…………ほら、ちゃんと付けた。だからまた、いーこにしていて?」
やさしく言いながら、カイトは微笑むくちびるを、間近ながくぽのくちびるへと近づけた。
「いーこにしてたら、ご褒美あげて、それから、いっぱいかわいがってあげる……んんっ」
耐えきれずにがくぽはカイトを抱きしめ、くちびるにきつく吸いついた。