天然誘惑メソッド

窓の鍵がきちんと締まっていることを確認し、それなりに教室の中が片付いていることも確かめてから、カイトは生徒会室の鍵を取った。

「がくぽ、帰るよ。……がくぽ。がーくーぽー?」

椅子に座ったまま、ぼさっと外を眺めるがくぽは、応えない。カイトは瞳を瞬かせてから、がくぽの前に行った。

ずい、と顔を近づける。

「がくぽっ」

「っ」

はたと我に返ったがくぽに、カイトは至近距離のまま、首を傾げる。

「帰るよ?」

「…………」

カイトの言葉に、がくぽはまずいものを食べたような顔になった。億劫そうに後頭部を掻き、椅子に凭れる。

「俺は……」

言いかけてから、カイトがちらつかせる生徒会室の鍵に目をやって、口を噤んだ。

鍵を閉められなければ、カイトは帰れない。部外者であり、『問題児』であるがくぽに、鍵を任せることは出来ないのだ。

諦めて立ち上がり、鞄を掴んだがくぽに、カイトは瞳を瞬かせる。

「家に帰りたくないなら、うちにおいでよ」

「………帰りたくない、わけでは」

「今日、親いないし」

「っ」

なにかしら言い訳を吐こうとしていたがくぽが、さらりとしたカイトの言葉に、瞳を見張る。

「まあ、元々父親は単身赴任でいないんだけど。今日は母親が夜勤で、一晩いないから。気兼ねしなくていーよ?」

「カイト」

がくぽは、低くひくく、カイトを呼ぶ。その声に、わずかな熱と欲を込めて。

気がついたカイトが、わずかに俯き、首を掻いた。

「……………行っていいのか?」

確認したがくぽに、カイトはすぐには応えない。

ややして、そろりとがくぽを見上げ、甘く笑った。

「…………………手加減、してね明日も、がっこーなんだから」