「会長、好きなんです付き合ってください!」

うるるん、と潤んだ瞳で見つめる下級生に、カイトはほんわりと微笑んだ。

「ん、ごめんね。気持ちはうれしいけど、俺、すっごく好きなひとがいるの。そのひと以外と付き合うって、ぜんっぜん、考えられないから……」

声は穏やかでやさしくても、きっぱりと撥ねつけられて、下級生は悄然として去って行った。

告白遊戯

その背を苦笑気味に見送り、カイトはくるりと振り向く。

密かに人気の告白スポット――人の滅多に来ない、第二校舎の裏庭。木立ちと藪と、それでいながらじめじめとしけっていない、爽やかな空気と。

そう、ここは――

「がくぽ。怒んないから、出ておいで」

腰に手を当て、胸を逸らして告げたカイトに、藪のひとつが、がさりと揺れた。

ややして、いつもの通りに端然とした表情のがくぽが出てくる。

人の来ない第二校舎の裏庭は、サボりの常習犯であるがくぽの『庭』だ。どこにどう隠れれば、なにをどう見られるか聞き取れるか、熟知している。

「まったくもう、盗み聞きなんて、おぎょーぎが悪いんだから」

笑って言うカイトの前まで黙ってやって来たがくぽは、わずかに身を屈めた。

カイトの顔を覗きこみ、その瞳をしっかりと見据える。

「好きです。俺と付き合ってください、カイト」

「………ぷっ」

真剣ながくぽの言葉に、応えたのは笑いを吹き出す失礼な音。

カイトは口元を押さえ、震えながらそっぽを向いた。

「………がくぽ………がくぽが、敬語……がくぽが敬語とか、おかしい…………っ」

懸命に堪えながらも、笑いの発作に襲われるカイトを、がくぽは真剣な表情で見つめ続ける。

気がついたカイトが、ふ、と笑いを治めた。一度俯いてから、その瞳に甘い熱を宿して、真摯ながくぽの瞳を見返す。

「………俺も好きです、神威がくぽくん。俺と恋人になってください」

はにかみながら告げて、微笑んだ。

がくぽはそっと手を伸ばし、カイトの腰を抱く。体を引き寄せると、笑みの形のくちびるに、静かにキスを落とした。