乱れた制服を軽く叩いて直し、がくぽは振り返った。
「っっ」
「もー。最近はちょこっと大人しくなったかなーと思ってたのにぃー」
わずかに距離を取り、放り出してあったがくぽの鞄を持ったカイトが、呆れたような顔で立っている。
見回す、路地裏――に、転がる、他校生数人。
欲しがりな君⇔あなた
がくぽはそれらの『屍』を無造作に越えて、カイトの前に立った。
「いつから見ていた?」
「ん?わりと最初っから。がくぽがヘンな子たちと路地裏入ってくなーと思って」
しらっと言うカイトに、がくぽは鼻を鳴らした。
「生徒会長ともあろうものが、乱闘を止めもせずに、傍観か」
「なに言ってんの、神威がくぽくん?」
がくぽの非難に対し、カイトは呆れを隠さない顔でふんぞり返った。
「下手に止めに入ったって、ケガするだけじゃん。俺の弱さをナメないでよ?」
「…」
自信満々に言われ、がくぽは瞳を眇めた。
カイトは肩を竦めると、歩き出す。がくぽの鞄を持ったまま。
「大体にして、あれくらいの相手にがくぽが負けるわけないんだし。ああも、どーしたら大人しくなるのかな、この子は」
無言で横に並んだがくぽに、カイトは口調だけぼやく。顔は明るく笑っていて、困っている様子がない。
「大人しくして欲しいのか、本当に」
「ほんっとーだよ。がくぽが強いのは知ってるけど、いつケガするかってひやひやで、寿命縮むし。ん?」
あくまでも軽く言うカイトの肩を掴み、がくぽは小路へと連れ込んだ。
壁との間に自分より遥かに華奢な体を挟むと、睨むように見下ろす。
「大人しくして欲しければ、俺のものになれ、カイト」
「………また、そーいうこと言って………」
呆れたようなカイトを、がくぽは真剣に見つめ続ける。屈むと、耳朶へと顔を寄せた。
「俺のものになれ、カイト。おまえが俺の熱を受け止めるなら、ああやって発散する必要もない」
「……っ」
くちびるに耳をくすぐられ、カイトは身を竦ませる。冷たい耳朶が熱を持って、赤く染まった。
手が伸びて、がくぽのシャツを掴んだ。
「…………ほんと、に………?俺が、がくぽのものになったら、大人しく、する…………?」
「ああ。おまえが俺の熱を受け入れるなら」
熱っぽくささやくと、カイトはびくりと震え、こてんとがくぽの胸に凭れかかった。
「……………騙されないんだからね………そんなこと言ったって、絶対大人しくするわけないんだから………」
ぼそりとつぶやきながら、カイトは掴んだままのがくぽのシャツを引っ張った。
「………でも、ちょっとだけ試してあげてもいい…………騙されてみてあげてもいいよ」
「カイト」
言葉を紡ごうとするがくぽのくちびるに掠めるようなキスをして、カイトは赤い顔で微笑んだ。
「がくぽのものになってあげる。いっぱいあっついの、ちょうだい…………?」