自宅の最寄り駅の改札を抜け、カイトは夕日へと向かって歩く。
同じように帰宅の途にある人々に紛れて通りを進みつつ、傍らを歩くがくぽを見上げた。
送り狼と送られ狼
「あのさ、がくぽ。がくぽの降りる駅って、いっこ前だよね」
「……………ああ」
特に気のない問いに、がくぽも淡々と頷く。
端然として歪みのない顔から目を逸らし、カイトは前を見た。沈みかけの夕日が眩しくて、目を細める。
「なんかがくぽって、毎日、俺のことふっつーに送り迎えしてるから、うっかりしてたけど………それって毎日、駅いっこ分、よけーにお金がかかってるってことだよね」
「…」
特に感慨があるわけでもないようなカイトの声音に、がくぽはちらりと視線を流した。夕日に眩しそうに歪む顔は、その内面が窺えない。
視線だけ寄越して言葉は返さないがくぽを斜めに見上げ、カイトはこれみよがしなため息をつき、再び夕日を睨んだ。
「…………なんだ。文句でもあるのか。俺が送り迎えするのは、そんなに不満か」
「お金が無駄だって話」
渋々と口を開いたがくぽに、カイトは冷たく言い放った。
「送り狼になるじゃなし、ほんっっっっとその労力とかお金とか、無駄っ」
そしてがくぽが反論するより先に、吐き捨てる。
がくぽは瞳を見開いて、夕日を睨みつけるカイトを見つめた。
いたたまれない沈黙のうちに、カイトの家の前に着く。
門扉に手を掛けたカイトは、微妙な表情のがくぽを見上げ、いつものように笑った。
「……………どーせなら、俺が『送られ狼』になろうか」
「カイト、」
がくぽがなにか言うより先に、伸び上がったカイトが軽くくちびるを掠めて離れる。
「ばいばい。また明日ね」
素早く離れると、カイトはかわいらしく手を振って、家の中へと消えた。
くちびるを押さえ、がくぽは閉じた扉を見つめる。
苦々しく、つぶやいた。
「…………………狼が、この程度で済むか……………!」