たかたかたかと、電卓を叩く音が続く。それを掻き消すように響く、生徒会役員たちの悲鳴と怒号、慌ただしい足音。
年に一回しかない総会も間近となると、普段は静かな生徒会室も、戦線さながらだ。
しつけのルール
電卓を叩くカイトの前で机に俯せていたがくぽは、むくりと顔を上げると、手を伸ばした。
長い指が素早く、カイトの叩く電卓のキーの上を走る。
「っあああああっっ!!がくぽっっ!!計算初めっからやり直しじゃんっ!!」
あと少しで終わるはずの、長いながい計算をめちゃくちゃにされたカイトが、椅子から立ち上がって叫ぶ。
「なにしてんの、この子はもぉっっ!!」
がくぽは机に懐いた自堕落な姿勢のまま、不遜に鼻を鳴らした。
「飽きた。構え」
「こぉの…………っ子は、もぉっっ!!お仕置きだべさぁあっっ!!」
「いっつ!」
他の役員ががくぽになにか言うより早く、カイトががくぽの耳をつねり上げた。
そのまま引っ張ると、大人しくついて来るがくぽを、隣の資料室に連れ込む。
ばたん、と扉を閉め、カイトは耳から手を離した。向き直った体をがくぽは素早く抱えこみ、くちびるを塞ぐ。
「ん……っんん………っふ、も………っ」
カイトの手が、がくぽに縋りつく。がくぽはますます深く、カイトの口の中を探った。
ややしてくちびるが離れると、カイトは潤む瞳でがくぽを見上げた。
「……………………お仕置きはするからね」
キスの余韻に蕩ける甘い声で、舌足らずに言う。
「俺を放っておくおまえが悪い、いっ」
あくまで不遜に言い張るがくぽの耳を再び引っ張り、カイトはわざとらしいしかめっ面を作った。
「資料室の棚の整理しなさい。元気があり余ってる子は、体動かしてる」
「……」
がくぽは渋面で、並ぶ棚を振り返った。
優秀さで鳴らす歴代の生徒会役員に、整理整頓のスキルはなかった――もちろん、今代も含めて。
棚の乱雑さは、ちょっとしたものがある。
面倒くさい、と顔にでかでか書いて見下ろしてくるがくぽを、カイトはわざとらしいしかめっ面のまま、睨んだ。
「サボったりしないか、ここで仕事しながら、俺が監視してるからね?」
「……」
一瞬の沈黙ののちに、カイトの言葉の意味を悟ったがくぽが、莞爾と笑う。
ちゅ、とゴキゲンにくちびるにキスを落とすと、腕まくりして棚へと向かった。
現金な態度に小さく吹き出してから、カイトはため息をつく。
「…………ほんとに俺、怒ってるんだけどなあ………」
計算滅べ、とつぶやきつつ、カイトは生徒会室へと資料と電卓を取りに戻った。