「………ほら、ね?」
「まあ、ほんとですわね……」
指差すミクに、ルカが瞳を見張り、次いで笑い崩れる。
手つなぎごっこ
とはいっても、元々が上品でお淑やかなルカだ。大きな声を立てるということはない。
それでも両手で口元を押さえて、少しでも声を漏らさないようにし、いつも以上に静かにしずかに笑う。
「無防備だよねー、二人とも。いや、油断し過ぎっていうか」
「信頼されているんですわ」
呆れたようなミクに、ルカは瞳を細めて言う。
生徒会室の片隅に並んで座り、身を凭せ掛けあって、生徒会長と問題児が、仲良くお昼寝中だ。
二人とも穏やかな顔で熟睡中で、生徒会室に役員が入って来たことにすら、気がつかない。
「会長はわかるとしても………………神威までですか」
「あっは、グミちゃんたら。いー感じに会長のことは諦めてるのねー」
腕を組んで眉をひそめる風紀委員長に、補佐を務めているリリィが吹き出す。ちなみにリリィが風紀委員長の補佐を務めていることは、学校の七不思議の九個目か十個目に数えられている。
風紀とは縁遠い容態のリリィを睨み、グミは眉間の皺を揉んだ。
「諦めざるを得ないでしょう。会長ですよ」
「その一言で済んじゃうから、グミちゃんがちょっとかわいそうだわぁ」
笑いながら、リリィは眠る二人に携帯電話を向ける。
カメラモードにしてシャッターを押そうとしたところで、べちっと携帯電話が弾かれた。
シャッターは下りたが、まったく明後日な場所を写してしまう。
「あん、ミクちゃんったら」
「撮影げんきーん」
「ですわ」
「当然です、リリィ!」
「ぁああん、みんなお堅いぃ~」
大してめげる様子もなくぼやくリリィの手から、ルカが携帯電話を取り上げる。
明後日なところを写したとはいっても、念のためにメモリを消そうとして、ふと止まった。
「ルカちゃん?」
「……………これ、……………………貰ったら、だめですかしら」
「巡音?」
遠慮しいしい、けれど熱っぽく訴えたルカが、居並ぶ面々に画面を見せる。
「………………………これくらいなら」
「初音」
「いやでもグミちゃん、欲しくない?」
「……………………確かリリィのアドレスには私のメアドも」
「欲しいんじゃん、やっぱ」
顔を寄せ合ってひそひそと相談した彼女たちは、眠りこんで起きる気配のない会長と問題児を、ちらりと見た。
そして、画面の中。
指を絡めて握り合った、手だけが写った、その写真。