両手は胸の前で、お祈りの形。
うなじまで真っ赤に染まり、うるるんと瞳を潤ませて、下級生はようやく言葉を絞り出した。
「神威先輩、好きです。付き合ってください!」
がくぽは端然とした表情を崩すことなく、応えた。
「俺は好きじゃない」
ドギー・ドッグ・ドク
「がくぽ、あのね。断り方っていうものを考えようよ。いくらなんでも、『俺は好きじゃない』はないでしょ?」
いつもの通りに生徒会室に顔を出したら、開口一番、カイトが言ったのがそんなことだ。
がくぽは一瞬だけ瞳を見張ったが、すぐに無表情に戻ると、定位置であるカイトの前の椅子に座った。
「見ていたのか」
「見てたし聞いてたよ。なんか俺最近、わりとがくぽのストーカっぽい」
余計な自己申告に、がくぽはあくびをするフリで口元を覆った。
カイトにストーキングされるならうれしいとか、そんなことで緩む表情を見せたくはない。
「でね、確かに言ってることはもっともなんだけど、『俺は好きじゃない』は止めようよ。泣いちゃってたじゃん」
「ならばどう言えと」
鼻を鳴らして訊いたがくぽに、カイトは眉をひそめ、首を傾げた。
「だからー…………好きな人がいるから付き合えないとか、ほかにやりたいことがあるから、今は恋愛にかまけてる暇がないとか」
「ふん」
椅子に自堕落にふんぞり返り、がくぽは不機嫌な顔でそっぽを向いた。
すきなひと、なら、確かにいる。やりたいこと、も――それもすべて、目の前に。
がくぽの告白の断り方について文句をつけている、そのひとが、すきなひと。
そのひとの後を追いかけることが、今いちばん、やっていたいこと。
決して、誰にも、言えないけれど――本人にすら、言えないけれど。
「……………にしても、いっこじゃ弱いのかなぁ」
「っ」
唐突に指が伸びて来て、着崩した襟をさらに広げた。
反射でびくりと竦むがくぽを気にすることもなく、カイトは首元を見つめる。
襟に引っかかった指が反って、つ、と首を撫でた。
そこにあるのは――
「『首輪』」
「……」
「見えづらい?それとも、がくぽの見た目タイプ的に、遊んでそうだから、いっこや二個じゃ、効果なし?」
「……っ」
顔を歪めると、がくぽはカイトの手を叩き払った。
誰が遊んでいる、だ――こちらは、目の前のひと一筋だというのに。
叩き払われたことに不快な顔をするでもなく、首を捻って考えていたカイトは、ふいに笑った。
がくぽの胸座を掴むと、引き寄せる。こつんと額を合わせると、炯々と光る瞳で見つめてきた。
「がくぽ、今度から、告白の断り方ね。『俺は会長の犬だから、おまえとは付き合えない』にしなさい」
「……」
瞳を見張るがくぽに、カイトはチェシャ猫のように笑った。
「ちゃんと言うんだよ?君は、俺のものなんだって」