我慢するのが嫌いだ。

それはおそらく、幼少期にあまりにも厳しく『我慢』を叩きこまれた、そのせいもあって。

けれど、もうひとつ言うならば――

おすわりと待てとご褒美

「あのね、がくぽ……っ」

「あ?」

椅子の背に凭れ、ぼんやりと窓から空を見つめるがくぽは、生返事だ。

生徒に行ったアンケート結果の取りまとめ中のカイトは、目の前に積まれたプリントの束を前に、拳を握ってふるふると震えた。

「やる気が殺がれること、甚だしいんだけど……っっ!!」

遠回しな抗議に、がくぽは尊大に鼻を鳴らした。

「知ったことか」

「もぉ、どうしてこの子はこうも、自分勝手かなっ!」

ため息とともに吐き出すカイト――は、現在、がくぽの膝の上だった。

カイトが自分から乗ったわけではない。

プリントとにらめっこ中だったカイトを、いつものように、呼ばれもしないのに生徒会室に顔を出したがくぽが、勝手に抱え上げたのだ。

カイトが生徒会の仕事にかまけて少しばかり注意を逸らすと、即座に『構え』と邪魔するがくぽだ。

そのがくぽとしては、一応、最大限に譲歩したつもりだった。

カイトが仕事をしているのを引っ掻き回したりして邪魔しないが、ずっと体温を感じていられる。

その重さを、香りを、身近にしていられる。

そのための、膝抱っこ。

「……膝に乗せているだけだ。それ以外に、なにもしていないだろう」

この譲歩を褒めて称えろとばかりに堂々主張するがくぽに、カイトはきりきりと眉をひそめた。

「君の手は、あんまりにも無意識の産物過ぎないかなっ!」

言いながら、カイトはべしりとがくぽの手を叩き落とす。

そうされてようやくがくぽは、自分の『無意識の産物過ぎる』手が、カイトの体を撫で回していたことに気がついた。

「もぉ、この子はどうしてこうも、ちょっとの我慢も出来ないのかな……」

ため息とともにぼやかれて、がくぽの眉がぴくりと跳ねた。

凭れていた椅子から体を起こすと、がっしりとカイトに組みつく。

「ちょっ?!」

「我慢を覚えさせたいと言うなら、まずは存分に甘やかせ」

「ぃたっ、ぁ、も………っっ!」

据わった目で傲岸に言い張られ、きつく絡みとられたカイトは、視線だけで天を仰いだ。

その瞳が和み、甘い色を宿す。

「………仕方ないな、も…………いっぱい甘やかしてあげる。だから………」

振り返り、近づいたカイトのくちびるが、がくぽの耳朶をくすぐる。

「俺のことも、やさしく、甘やかして?」