ぴらりとした、紙一枚。

重量はグラム単位なのに、含まれる意味は、山より重い。

雲上楼閣より、愛を込めて紙ヒコーキ

「――がくぽはさあ、大学どこに行くの?」

「おまえは?」

珍しくも、放課後の教室にカイトが一人残っていた。自分の席についたまま、一枚の紙を弄んで。

勝手に前の席に座ったがくぽは、前触れもなく放たれた問いに、問いで返した。

机に伏せり気味になったカイトは、上目遣いでがくぽを見て、くちびるを歪める。

「ぬふふふふ」

「………………なんだその笑い」

ツッコんでから、がくぽはだらしなく椅子の背に凭れ、窓の外へと目を遣った。

「いーからさ。がくぽの将来の夢は?」

「おまえのヒモ」

気もなく答え、ちらりとカイトを見る。

一瞬瞳を見張ったカイトは、すぐに真面目な顔になると、身を乗りだして来た。

「だめだよ、がくぽ。がくぽは俺と違って、すっごく頭がいいんだから。ちゃんとそれを活かせる道を探して」

「………」

「そんでちゃんとした大学行って、いい成績修めていい会社に入って」

――よく聞く話。

瞳を眇めるがくぽに、生徒会長はにっこりと笑った。

「俺のこと、ヒモにして☆」

「………………」

笑ったカイトはそのまま腰を浮かせ、がくぽへと顔を寄せる。軽くくちびるを触れ合わせてから、こつんと額同士をぶつけた。

「高校卒業したら、いっしょに暮らそ俺はヒモになるから、がくぽは頭の良さを十分に活かしていっぱい稼いで、俺のこと養って」

「……………おまえ、ヒモというが、家事炊事は」

問いに、カイトはがくぽから額を離した。

再び椅子に座ると、胸の前で手を組み、天使のように愛らしく笑って首を傾げてみせる。

「がくぽが『いーよ』って言ってくれたら、うれしくて俺、すぐにもおばーちゃん家に、修行に行く☆」

花嫁修業か。

心の中だけでツッコみ、がくぽは小さくため息をついた。その体から、ゆるゆると力が抜ける。

さらにだらしなく椅子に崩れ、がくぽは再び窓の外を見た。

「志望校は、いくつかある。レイデンに、ベルゲン、それからウプサラ」

「……………なんか、外国語ばっか?」

きょとんと瞳を瞬かせたカイトへと、がくぽは笑顔を向ける。小さく、首を傾げた。

「外国は、いやか?」

「ううん。がくぽといっしょなら、どこでもへーき!」

笑顔で力強く答えるカイトに、がくぽもまた笑みで応える。

がくぽは素早く体を起こすと手を伸ばしてカイトの頭を招き寄せ、笑うくちびる同士を深く合わせた。