特に行事や大会も迫っていないとなると、生徒会室が開くのは放課後だけで、昼休みは大体、閉まっている。
――閉まっているのが、前提。
キストキメキトスキ
「……………無防備な」
眉をひそめて吐き捨て、がくぽは静かに扉を閉めた。
閉まっているはずの、昼休みの生徒会室――の扉が、開いていたかと思えば、中ではカイトが机に突っ伏して、健やかにお昼寝中だった。
とはいえ別に、お昼寝のためにわざわざ、生徒会室を開けたのではないだろう。
なにかのファイルを、開いたまま枕にしている。
食事を済ませて、確認したいことができて、生徒会室に来た――が、ここの日当たりは、いい。
ぽかぽかうららかな陽気と、休み時間の喧噪も遠くゆったりとした静けさに、ついうとうとした、というところか。
しかし、生徒会長。
「あまりに油断し過ぎだ」
断りも約束もなく生徒会室に入ったがくぽは、さらに遠慮なくカイトの向かい、自分の定位置と勝手に決めた椅子に座り、小さく吐き出す。
愛され型の生徒会長だが、そのほのぼのとしたキャラクターとは裏腹に、辣腕を振るうことに躊躇いがない。
圧倒的に味方が多いのは確かだが、まったく敵がいない状態でもないのだ。
現に今だとてこうして、勝手に入りこんで来る『問題児』がいるではないか。
だというのに護衛を置くでもなく、鍵を掛けて防犯するでもなく、無造作に寝こけたりして――
「…………たるんでいる」
乱闘騒ぎを頻繁に起こすことで問題児となっているがくぽだが、それは相手が絡んでくるから叩き伏せているだけで、自分から手を出しているわけではない。
――少なくとも、がくぽの認識上は。
だから日々、自分の頭を押さえつけ、いいように振り回してくれる生徒会長といえど、寝ている相手にここぞとばかりに、仕返しをしたりはしない――が、そういう輩ばかりとは限らないのも、悲しい現実だ。
この生徒会長が、簡単に背後を突かれ、付けこまれる隙を与えるような甘ちゃんではないと、薄々わかってはいるけれど。
「……………もう少し、危機感を持て」
ほとんど吐息のようにつぶやき、がくぽは眠るカイトへと顔を寄せた。
無防備に、開くくちびる。
こぼれる、安らかな寝息。
緊張感もなく緩んだ、その体――
「………」
触れる直前で的を逸らし、がくぽのくちびるはカイトの額を撫でた。
――寝ている人間に、なにかする趣味はない。
いくら『問題児』であっても、そこまで堕ちる気はない。
それでも未練がましく、無防備に晒されたくちびるを眺めていたがくぽだが、ため息ひとつで思いきった。
カイトに倣って机に伏せると、瞳を閉じる。
世界に満ちる音は、カイトの寝息――それだけ。
「………………この、チッキンが」
大きなため息とともに吐き出されたつぶやきは、聞こえないふりをした。