通りすがり、廊下の片隅で捕まえられた。
物陰に引きずりこまれて、なにを言うより先に、塞がれるくちびる。
Tell Tale Tit
「んん……ぅふぁ…………ん…っ」
「は……ぅ、こら…………カイ………………」
塞いでもどかしく舐められ、抗議のために口を開けば当然のように、舌。
迎え入れて応じつつ、がくぽは反射で抱きしめたカイトを壁側にやり、自分の体を盾にして姿が隠れるようにした。
学校の内外に『問題児』として名を馳せるがくぽのコイビトは、その『問題児』に首輪をつけて飼い馴らしたと評判の、生徒会長。
思いつくアイディアの悪魔的なこと、それを振るう手の容赦のなさと、――そして他人の予想を遥かに覆す愛らしいキャラクターぶりで、ファンも多い生徒会長だ。
もちろん、二人がコイビト同士であることは秘密で、公的には生徒会長=飼い主、がくぽ=犬。
さもなければ、『主人と下僕』。
――ろくなものではないが、がくぽとしては特に否やはない。
どうでもいい。
自分がカイトのもので、カイトの傍には常に自分が在るのだと、知らしめることならば。
そう、『問題児』である自分の評価がこれ以上どうなろうと、これ以下になろうと、それはどうでもいい。
いいが、カイトだ。
愛される生徒会長。
手放す気はまったくなくても、その評判が地に落ちるような――それも自分が原因になるとなれば、恐怖を覚えずにはおれない。
と、いうのに。
「ん、っこら、カイト!」
「んん……っ」
ようやくくちびるを離して、がくぽは小さく叱りつけた。
今は人通りが絶えていても、学内の廊下だ。いつ誰が通りかかるかもわからないというのに、この会長様ときたら。
通りすがったがくぽを捕まえるや、やにわにキス。
「がぁくぽ…………ぉ」
「……まったく」
キスの余韻だけでなく、カイトの声も言葉も舌足らずに、甘く蕩けている。
崩れそうになりながら擦り寄る体を抱きしめ、がくぽはため息をついた。
「おまえたまに、発情期のねこのようになるよな………」
「ん?」
慨嘆したがくぽを見上げる瞳も、とろりと蕩けて、熱っぽい。
懲りることもなく再びくちびるが近づいてきて、突き出された舌ががくぽのくちびるを舐めた。
「カイト」
「んん、キス………ね?おねがい、がくぽ…………」
「…………まったく……」
慨嘆して、がくぽは殊更にカイトに伸し掛かり、覆い被さった――微妙な顔をされることもあるが、身長差万歳。体格差ありがとう。
通りがかる誰にも、完全にカイトの顔が見えないようにして、がくぽは恋人のくちびるに食らいついた。