ほんのわずかでも、永遠に感じられるコール、数回。
唐突に聴覚が開けて、飛び込んでくる明るい声。
『はいはーいっ、がくぽ、お待たっ!おれおれー☆だよんっ』
ハッピー☆コール
「こちらから詐欺師に電話した覚えはない」
唐突に電話したというのに、受けたその声には迷惑がる素振りもない。
いつもの通りに明るく迎えてくれてうれしかったのに、がくぽはつい、そんな憎まれ口を叩いてしまった。
『えー、だってさ、がくぽ。がくぽから俺のケータイに電話してんだし、いーじゃん、おれおれーで』
「おまえには間違い電話の概念はないのか?」
ついついくり返す、かわいくない毒吐き。
けれど、ひどく安心している――いつからか落ち着けなくなった自分の部屋だということも忘れて、体から力が抜けて。
毒を吐きながらも笑みを浮かべていたがくぽのくちびるはしかし、すぐに引き結ばれた。
『うんまあ、そこらへんのことは後にしてね。がくぽ、用事なあに?急ぎ?今じゃないと、だめ?』
「………」
電話が苦手なのは、こういうところだ。
掛けたときに必ずしも、相手と繋がっていられるとは限らない。
メールアドレスも貰っているのだから、先にメールをして時間が空いているかどうか確認すればいいのだろうが――
実際、大した用があるわけではない。
いちいち前触れをして時間を取ってもらって、どうしても話さなければならないような、そんな用事ではない。
ただ、声を聞きたくなった。
心臓が痛むほど、呼吸も覚束なくなるほど、切実に――その明るさに、やさしさに、『カイトに』触れたくなった。
「…………忙しいのか」
『えー、いや、忙しいってかさー』
硬い声で訊いたがくぽにも、カイトの声の明るさは変わらない。
いや、いっそ無邪気とすらいえる声音で、あっさり告げた。
『俺さ、今、おフロ入ろうと思って、服全部脱いだとこなんだよねー♪つまり、ハダカ。全裸なの☆』
瞬間的に携帯電話を見つめて考えこみ、それからがくぽはみるみるうちに顔から耳から、赤く染まり上がった。
「っっっ出るなっ、その状態でっっ!!」
送話口に向かって怒鳴ると返事を待つことなく、ぶつっと電話を切る。
「………もー」
怒られて唐突に切れた電話に、カイトはぷくっと頬を膨らませた。
通話は終わったと知らせる画面表示を、ぴん、と指で弾く。
「なに考えた、このすけべ☆」
相手もいないのにからかって、カイトは携帯電話を放り出した。
「まあいーや。おフロ出たら今度は、俺から電話して訊いてやろっと♪」