校庭よりもわずかに高くなっているプールに近寄り、がくぽはフェンス越しに中を覗きこんだ。
普段見下ろすことが多い相手が、今日は遥か頭上にいる。
ひとよひとよに
「なんだ、カイト………おまえは泳がないのか。せっかく水着姿を見ようと思ったのに、ったたっ」
「チカンがいます、このあほのこわんこ!」
ちょっとした冗談――本音八割で言ったがくぽの頬を、いつも穏やかな生徒会長は、にこやかに笑いながらつねり上げた。
フェンス越しだが、ちゃんと力がこもっていて、痛い。
「冗談だろうが。なにもそう……」
「違う、この駄犬!!」
「ったたたっ!!」
頬をつねり上げる手にさらに力がこもって、がくぽは媚びるためでもなく、多少は本気で悲鳴を上げた。
カイトのクラスは現在、体育の授業中だ。本日のカリキュラムは、水泳。
がくぽのクラスは――これは言っても、仕様がない。所詮サボり魔だ。
それはそれとして、クラスメイトたちが水着姿となってプールに入っているのに、カイトはひとり、プールサイドに座ってぼんやりしていた。それも、制服姿のままだ。
つまり、見学。
具合が悪いようでもなく、女子でもない。
入れない日というわけでもないだろうし、プールが嫌いという性質でもないようなのに――
純然と疑問に思うがくぽに、フェンス越しに頬をつねり上げていたカイトは、ほんのりと目元を染めた。
「………」
思わず見入るがくぽに、カイトは座りこんだ足をもぞつかせた。
「………が、がくぽが………あ……あんなとこに、アト、つけるから………っ」
「っ」
はっとして、がくぽの視線はカイトのもぞつく足の際へと行った。
カイトはがくぽの頬から手を離すと、視線から守るようにそこを押さえる。
「う、うちのがっこーの水着じゃ、隠れないんだもん………っ。ど、どー考えても、おかしいでしょ、あんなとこに、あんなアト………っ」
言っているうちに、カイトは目元だけでなく、頬からうなじ、全身まで真っ赤に染まっていった。
凝然とそんなカイトを見上げていたがくぽは、ぽつりとつぶやいた。
「悪い。………今度から、場所を考える」