ベッドの上で自分の手を眺め、その手が成したことの罪深さに、がくぽはきりりと奥歯を鳴らした。

罪と罰と悪徳の栄え

「そーこまでっ!!」

「っっ」

いつもなら、言葉で制止するだけの生徒会長だ。

それが今日は、わざわざ喧嘩の現場に乗りこんできて、勢いよく振り出したがくぽの拳に組みついた。

なんとか拳を止めたものの、もしかしたらカイトを傷つけていたかもしれない。

がくぽの心臓は痛むほどに波打ち、視界が眩んだ。

「カイト、おまえな!!」

「もう勝負あったでしょ?!どうしてそんなに、自分まで血が出るくらい殴らないといけないの?!!」

「…っっ」

相変わらず腕に組みついたまま、カイトは懸命な色を宿して叫ぶ。

がくぽは息を呑み、片手に釣り上げたままだった相手を地面に落とした。

意識は失くしていないものの、戦意は完全に喪失している。

咽喉の奥で風の通るような悲鳴を上げながら、血と痣だらけの相手は無様に地面を這いずって逃げていった。

カイトが組みついているせいだけでもなく、その後を目で追うこともないまま、がくぽはきりりと奥歯を鳴らす。

「おまえには、関係ない」

「関係なくないでしょぉが、この『問題児』っっ!!」

どうにか吐き出した言葉は、即座に叩き返された――それもそうだ。

喧嘩をしている生徒がいたら、手を打たなければならないのが生徒会長。

さらに言うと、がくぽは会長預かりという身分。

ますますもって、関係ないと通り過ぎることなど出来ない。

「だとしても、振ってる最中の拳に飛びつくとか、……」

「そうしなきゃ、止まんなかったでしょうが、がくぽ!」

それにもびしりと言い返してからカイトは一転、弱々しい表情になった。

心の内を見通そうとするかのように、澄んだ瞳をがくぽに向ける。

「……あのね、今日、ヘンだよ、君。いつもはケンカっていっても、自分があんまり痛くない方法で、相手のことも、小一時間立てないようにするくらいなのに……。なんかまるで、自分のこと、虐めたいみたい」

「………………それこそ、おまえに、関係ない」

掠れた声でようやく吐き出したがくぽに、カイトはため息をつく。

組みついたままだった腕から体を離すと、カイトは傷の具合を確かめるようにがくぽの手を捧げ持った。

「離せ。汚れる」

「離さない。………もぉ、大事な手なのに」

「なにが大事だ、こんな手」

その手が犯した重大な罪を知らないから、カイトは無邪気に触れるのだ。

いや、現実に汚れる汚れない以前に、すでに自分はカイトを汚した――

いたたまれずに振り払おうとしたがくぽの拳をしっかりと掴み、カイトは血に塗れたそこに、ちゅっと音を立ててくちびるをつけた。

「おいっ!!」

慌てたあまりに力加減を忘れて振り払ったがくぽに、くちびるをまだらに染めたカイトは陶然と笑う。

「大事な手、だよ、がくぽその手はワルイコトもするけど、俺のこと、すっごく気持ちよくしてくれるんだから」

言って、カイトは自分の指についた血にてろりと舌を這わせた。

「………きょーはこの手、洗えないなー………大活躍のよかーん………」

つぶやいて、ちゅぷりと指をしゃぶる姿に、がくぽはひたすら見入っていた。