「そもそも高校生にもなって、『機関車ト○マス』っていうチョイスが甘いんだけど」
手に持ったDVDのパッケージをぱん、と弾いてせせら笑ったカイトを、がくぽは訝しげに見た。
sweet trap
「――なんだ、それ?」
生徒会室での指定席としたカイトの前の椅子に、だらけた格好で座っていたがくぽはなんの気なしに訊く。
せせら笑ったDVDのパッケージを手に持ったまま、カイトは軽く肩を竦めた。
「グミちゃんから、本日の上納品」
「風紀委員長から、……………ああ。没収品か……」
どちらかというと校則は緩めなのだが、見つけたなら没収しなければならない品というものはある。
机に並んだものをざっと眺め、がくぽは瞳を細めた。
アニメDVDがほとんどだ。
そこに紛れて小物も散らばっているが、大したものがあるとも思えない。
校則の緩さに反して、今期の風紀委員長はちょっとばかり神経質だというのが、一般生徒の評価だ。
その評価に反論もなく呆れたがくぽに、カイトはDVDのパッケージを開いて中身を見せた。
「……………ああ。まあ、そうだな……………高校生で『機関車ト○マス』はいくらなんでも、浅はかだな………………」
「でしょ。バレバレじゃん」
カイトが開いて見せた中身には、機関車の欠片もなかった。
下半身を疼かせる煽り文句とともに、あられもない姿の――
偽装にしても、もっとうまくやれと思う。高校生で、『機関車ト○マス』はない。それが許されるのは、子持ち男だ。
お盛んな年頃の男子高校生が、にやけながら『機関車ト○マス』をやり取りしている時点でもう、疑ってくれと叫んでいるようなものだ。
もしこれが、ぎりぎり健全な美少女ものアニメのパッケージであれば、没収されることはなかっただろう。
神経質だと評判の風紀委員長だが、アニメオタクは許容している。パッケージだけ見て中身を確認することなく、口頭注意で済ませていたはずだ。
「しかも、コレだし」
カイトが机からつまんで放り投げたものを受け取って確かめ、がくぽは諦めのため息をついた。
パッケージにくるまれたまま、まだ使用されていない男性用避妊具。
使用されていないからいいだろう、という問題ではない――『高校生』が、『学校』にこういったものを持ちこんでいることが、問題なのだ。
「サイズどう、がくぽ?」
「は?」
唐突としか思えない脈絡で訊かれ、がくぽは瞳を見張ってカイトを見た。
カイトはちょい、と指差し、がくぽが弄んでいる避妊具を示す。
つまり、自分のものとサイズが合うかどうか、と――合ったなら、横流しでもしてくれる気なのか、この会長。
がくぽは眉をひそめ、弄んでいたものを机へと放り投げた。軽く胸ポケットを撫でる。
「他人のものなど、わざわざ要るか。恵んでもらわずとも、きちんと自分でじょうび」
「ほう、そうですか、神威………」
珍しくも途中で言葉を切ったがくぽの肩を、普段はやわらかな手が怒りに筋張って叩いた。そのままきしきしと、骨が軋むほどに、力いっぱい掴まれる。
「それは是非にも、見せて貰いましょうか………!!」
「は………………っ嵌めた、な…………カイト……………!!」
乱闘馴れした『問題児』でありながら冷や汗に塗れ、がくぽは背後に立つ風紀委員長と、目の前に座る生徒会長を見比べた。
生徒会長は天使のごとくに愛らしく笑うと、がくぽに向かってぱん、と両手を合わせて拝む。
「ごめんね、がくぽっ!でもでも、きょぉのグミちゃんはちょっと、本気で逆らえない☆」
それはわかる。背後からの圧が並ではない。
とはいえ『売られた』ことは確かで、恨みがましく見つめるがくぽに、避妊具を使われる先の恋人である生徒会長は、焦って身を乗り出した。
「あ、えと、それにっ、ほらっ!!なくてもだいじょうぶっ。俺、がくぽに中出しされるの、好きだしっ。むしろないほうが、いいっていうか!」
今それを言うのか。
恋人のあられもない告白にどうしようもなく疼く下半身と、圧が増してそのまま押し潰されそうな仁王の存在を背負いつつ、がくぽは深いため息をついた。