がくぽの制服の胸元をつまむと、カイトは気難しい顔で首を傾げた。
「あのさ、いっつも悩むんだけど。ブレザーの場合、『第二ボタン』って、どのボタンのこと言うわけ?」
ホタルノヒカリ
「………」
知ったことか、とは思ったものの、そのまま言うのではあまりに素直だ。
がくぽはため息をつくと、カイトの手を振り払い、壁に凭れた。
寒い季節だが、屋上の陽だまりはぽかぽかと暖かい。
――ここでこうして、カイトとのんびり昼休みを過ごすのも、あとわずか。
「……つまり、欲しいのか?俺の第二ボタン」
「んー。欲しいっていうかー。あげさせたくない?つまりは独占欲みたいな」
「ほう」
気難しい顔のまま言うカイトに、がくぽは思いきり瞳を眇めた。
手を伸ばすと、傍らにちょんまり座るカイトの胸元、ボタンのひとつをつまむ。
「それで?おまえのボタンの『予約』は?」
「ん?ああ、えっと、右上から、ミクちゃんでしょ、ルカちゃん、グミちゃん、リリィちゃんに……」
「………」
ますます剣呑に瞳を眇めていくがくぽにも構わず、カイトは腕を曲げて袖口を見せる。
「こっちの袖のが、リンちゃんとレンくんでしょ、で、こっちの袖が……」
「………」
「それから、シャツのボタンが上から………」
「…………………」
怒りも通り越して、項垂れるしかない。
生徒会長は、モテモテだ。
モテモテなのが、生徒会長だ。
がくぽのコイビトだ――
「で?俺の分のボタンは?」
ひと通り全身のボタンの行方を教えられてから、皮肉にくちびるを歪めて訊いたがくぽに、カイトはにっこり笑った。
「がくぽの分?あるわけないでしょ?」
あまりに明るく言い放たれて、がくぽは反論も思い浮かばず、くちびるを引き結んで仰け反った。
そのがくぽへと、カイトは笑いながらくちびるを寄せる。
「みんなには思い出を上げるけど、がくぽには『俺』をまるごと全部、貰ってもらうんだから」
『思い出』なんて、必要ないでしょ?
悪戯に笑うくちびるは、綻んだがくぽのくちびるにやわらかに触れた。