校内に複数あるがくぽの隠れ場所は、時として他の誰かと共有していることもある。

顔を合わせないようにはしているが、あちらが落し物をしていけば、それとは対面せざるを得ない。

スモーカー・ブルース

「………」

隠れ場所のひとつである体育館裏に来たがくぽは、眉をひそめた。身を屈めると、地面に放り出されている小箱を拾う。

ラッキーセブン。

「………くだらない」

自動販売機には年齢認証カードが必要になって、店頭販売も締めつけがきつくなった。

そんな苦労をしても、高校生の身でどうしても、ニコチンが必要だろうか。

ましてや、未成年者による喫煙の取り締まりがもっとも厳しい学校にまで持って来て、吸う意味は――

彼らの抱える闇も欲望も、その発散方法も、がくぽにとってはくだらない。

おそらく、がくぽが抱えて発散する闇と欲望が、彼らにとってはくだらなく、意味がないように。

拾い上げた箱の中を見ると、まだ数本残っていた。

がくぽに喫煙の習慣はない。だからといって、このまま地面に放り捨てていくのも躊躇われる。

一瞬の、逡巡――

「がくぽっ!」

「っっ」

背後から声をかけられ、がくぽは反射的に振り返った。

立っていたのは、聞き間違うことなどあろうはずもなく、生徒会長であるカイトだ。

サボり魔で乱闘常習犯であるがくぽの監視を担う会長は、問題児が校内に持つすべての隠れ場所を把握している。しかも『今』いる場所を正確に強襲してくる、意味不明な能力の持ち主だ。

いつもなら、適当に会話をして、いなして――けれど今、がくぽの手には煙草の箱が。

拾ったもので、このあとも吸う気などないが――

「………もー………そんな顔しないの、がくぽ。違うって、わかってるから」

煙草の箱を握りしめたまま立ち尽くすがくぽに、カイトはやわらかに笑う。

弾む足取りで近づいて来ると、爪が食いこむほどに握りしめられたがくぽの手を、己の手でそっとくるんだ。

「拾ったんでしょがくぽのじゃないし、パクる気もなかった――でしょちゃんとわかってるから、だいじょうぶ」

「………どうしてそんなことが、言い切れる」

低く、激情を抑えた声で訊いたがくぽに、カイトはぴくんと眉を跳ね上げた。しかしすぐに悪戯っぽく、くちびるが尖る。

カイトはがくぽの手をくるんでいた手を離すと、垂れる長い髪を掴んだ。やられることはわかっていても逃げる隙はなく、容赦なく髪が引っ張られ、がくぽは反射で屈む。

「っのっ………っ」

抗議しようとしたくちびるがカイトに塞がれ、開いたそこを舌がやわらかに舐めていった。

息を呑んだがくぽからわずかにくちびるを離すと、カイトはちろりと舌を閃かせる。

「………煙草の味、したことないもん」

蜜のように甘く蕩ける声で言うと、カイトは再びがくぽの手を撫でた。力を失くしたそこから煙草の箱を取ると、ようやく体を離す。

にっこり笑って、潰された煙草の箱を掲げてみせた。

「これからも、吸ったらだめだよまずい味になったら、してあげないから♪」