「ん、んちゅ…………ん、んー………?」

「ん?」

校舎の片隅に隠れ、くちびるを重ね合わせてすぐ。

いつもなら溺れこむだけなのに、カイトは鼻に抜ける疑問符を飛ばし、がくぽの胸を押した。

腰を抱く手はそのまま、一応くちびるを離したがくぽをじっと見る。

正確には、今まさに重ねていたがくぽのくちびるを。

リップ・ラップ

「カイト?」

「やっぱ、ちょっと荒れてきてる。寒くなってきたし……でもまだ、痛いって感じじゃないよね?」

「は?」

ぶつぶつと評するカイトに、がくぽは意味がわからず眉をひそめる。

構うことなく、カイトは腰を抱かれたまま自分の制服のポケットを漁り、スティックを取り出した。

「………なんだそれは」

表情を空白にして落とされた問いにも、カイトががくぽの心情を汲んでくれることはなかった。

スティックの蓋を外して中身をねじり出しながら、平然と告げる。

「リップクリーム。くちびるが荒れ荒れかさかさになっちゃうのを防いで、つやつやぷるるんにしてくれるお薬です」

「それはわかる。訊きたいのはそういうことではなく」

カイトがリップクリームを持ち歩いているのはいいとして、その表装、パッケージだ。どう見ても、女子が歓びそうな――

男子も持ち歩いて不自然さのない、シンプルさや無骨さとは縁遠い。

「やっぱね、こういうのは女の子に情報もらうのがいちばんん、がくぽ、ちょっと『あー』して」

「………」

スティックを適当な長さにしたカイトは、がくぽに向かってにこやかに振ってみせる。

ふわりと鼻腔をくすぐる、甘い香り。

きゅっとくちびるを引き結んだがくぽに、カイトは『にっこり』笑った。

「がくぽ………『あー』」

「………」

――どのみち、抵抗など無駄だ。最後には、カイトに折れるしかないのががくぽだ。

諦めて、がくぽはわずかに口を開いた。カイトはすぐさま、そこにクリームを塗りつける。

馴れない、べったりもったりとした感触。

顔をしかめるがくぽを、カイトは悪戯っぽく見上げた。

「舐めちゃだめだよ、がくぽ一応、舐めてもへーきなやつだけど………」

言いながらカイトは、自分のくちびるにもクリームを塗る。

「はい。ねおそろい!」

――だからなめなめするのは、我慢してね?

言い聞かせるようなカイトのくちびるをじっと見つめ、がくぽは腰を抱く腕に力を込めた。

いつもいつも艶めいて、がくぽを誘って止まないくちびる。

そこがさらに艶やかさを増し、そのうえ甘い香りが立ち上る。

甘いものは好きではないが、カイトは別だ。

「ん、ちょ、がくぽ……?!なめなめ、だめって……ぁ、んっ、んゃんっ!」

がくぽは募る欲求まま、カイトのくちびるに食らいつき、貪った。