むずむずと、笑みを堪えて歪むくちびるが開いて、落とす爆弾。
「神威クン、あのね……デキちゃった。みたいvvv」
――避けられもせず、まともに受けたがくぽは水を被った。
白亜の神殿
つまりこのとき、昼休みだったのだ。
天気が良かったので屋上でランチタイムとし、そして食べ終わったがくぽはちょうど、水分補給をしようとしていたところだった。
ペットボトルだった――リサイクル品として事後に扱いやすいよう、潰しやすい構造になっているペットボトルは飲み始めで、未だ結構な量の水が入っていた――
それを力いっぱい、勢いよく、握り潰した。
結果は推して知るべしで、がくぽは避けるどころでなく、噴き出した水を上半身に思いきり、被った。
「みずっ?!みずっ……コレがほんとの、ミズもしたたるいーオトコっ?!カラダ張り過ぎだし、がくぽっ!」
「言いたいことはそれだけか……っ」
がくぽが、曰くの『いーオトコ』となる原因となった相手――ランチタイムを共に過ごす恋人もとい、とんでもない悪ふざけを言い出したカイトといえば、腹を抱えてげらげらと笑っていた。薄情もいいところだ。
ひぃひぃと肩で息をするカイトは、懸命に笑いを堪えて顔を歪ませつつ、そんながくぽを嘲って指差す。
「動揺し過ぎなの!ヤっだぁ、神威クン~!フケツぅ~!ココロ当たりでもあるのぉ~?」
「ないと思うのか、昨日の今日で?!」
腹立たしさ倍増の板についたぶりっこぶりに、がくぽは堪えきれず牙を剥き出して咬みついた。
が、カイトは悪びれもしない。反省の素振りもなく、くちびるの前に立てた人差し指をちちちと横に振った。
「『ない』よ。俺、オトコだし――『昨日の今日』なら、なおさらでしょ。こういうのって、三か月とか半年とかして、ようやく結果が出るものだよ?翌日に言い出す子がいたら、詐欺師としてデキが悪いにも程があるし……信じるオトコがいたら、それはもう、アタマが悪いってレベルも超越して、どうかしてるって言うんだよ!」
「しらしらと……っ!!」
カイトは言って、再び腹を抱えてげらげらと笑う。これをして、悪辣ここに極まれり、あくどいにも程があるというのだ。
がくぽは半ば涙目で、昨日ようやく、思いを遂げたばかりの相手を睨みつけた。そう、昨日ようやくだ。昨日ようやく、その翌日に――
「……っ」
恨みがましく思い返すがくぽの瞳が、ふっと色を変えた。不可思議さから戸惑いへ移ろい、あえかな確信が――
「がくぽ?」
急に神妙な顔で黙りこんだ相手に、からかいが過ぎたかと、カイトが心配げに覗きこんで来る。
見返して、がくぽはもどかしさに表情を歪め、ぼそりとこぼした。
「取りたかった、責任」
「……は?」
覗きこんでいたカイトの瞳が、大きく見開かれる。追いつけない思考がありありとわかる表情で、固まった。
対してがくぽは音として発したことで、あえかなものがはっきりとした確信へ変わった。力強く頷き、くり返す。
「取りたかった。それでおまえが手に入るんだろう?ならば、責任を取りたかった」
「え、ちょっ、まっ………あの、あ、がくぽ?がくぽさん?」
くり返されて、カイトにもがくぽの本気さ加減が伝わったのだろう。ますます大きく瞳を見張り、笑いの興奮からとは別の朱が、頬に耳にうなじにと、全身に広がっていく。
色めく相手を見つめ、がくぽはことりと首を傾げた。高速で思考を空転させ、きゅっと眉をひそめる。
「いや、まだ間に合うか……?デキはしないでも、同じ男に掘られた時点で、もはや婿には行けんだろうし…」
「がくぽっ!ほ、ほられたって、ほられたって、いうなっ!だいたい、たかがいっかいくらいで、ムコにイけないカラダとか……っ!」
真っ赤になって喚く同性の恋人を、がくぽはあくまでも真摯かつ真剣、真面目に見据えた。
こくりと、頷く。
「わかった、カイト。本気出す。大丈夫、安心しろ。責任を取るためだから」