真っ平らだ。喩えるなら断崖絶壁。
いや、単に肉がないというのとは違い、ほどよく筋肉があり、きゅっと引き締まって――
ねこのしっぽっぽ
「どう言ってもまあ、丸くもやわらかくもない事実に変わりはないがな………」
思考を転がしたが絶望的な結論は変わらず、がくぽはため息とともに諦念を吐き出した。
直後。
「いっぎっ!!っカイ、っ」
手の甲をきつくつねり上げられ、がくぽは反射で相手を睨みつけた。
が、それ以上の罵倒もなく口を噤むと、わずかに背を仰け反らせて退避姿勢を取る。
しかし肝心の、つねり上げられた手は尻だ。カイトの。
「こンっっっの、えろわんこがっ……っ!」
羞恥に顔を真っ赤にしたカイトは、微妙な潤み目でがくぽを睨みつける。ぷるぷるわなわなと震えながら、しつこく尻に触れているがくぽの手の甲を、こちらもめげずにきゅいきゅいとつねり上げた。
が、背は仰け反って退避姿勢のくせに、がくぽの手は一向に尻から離れない。カイトの。
「資料室でふたりっきりになった途端、尻を撫で回してくんのもどうなのって話なのに、挙句ため息つきながら、なに?!『丸くもやわくもない』~?ほっっっといてよ!俺をなんだと思ってんの?!オトコだからね!尻にも胸にもニクなんかないし、なんだからそんなもん、撫で回すなって話なんだよね!ため息つきながらっ!!どんだけシツレイなの、がくぽ?!」
赤い顔でぎゃんぎゃんと喚くカイトに、がくぽは思わしげな視線をちらりと後方――資料室と接している生徒会室の方に投げた。
扉は閉まっているが、さすがに大声を出せばあちらにも漏れる。
問題児が生徒会長の尻を撫で回しただとか、挙句その感触に不満を漏らしただとか、万が一にも会長のフーリガン、違う、フリークな役員たちが耳にすれば、ただでは済まない。
とりあえず今のところ、誰かが駆け込んでくる様子はない。とはいえ今後の保証もない。
保証はないので、さっさと生徒会長殿の『誤解』を解いて、お黙りいただくに限る――
と決意して、がくぽはカイトに視線を戻した。
手は尻に置いたままだ。カイトの。
もにりと、その指が感触を確かめるように、蠢いた。
「んっひっ?!」
カイトのくちびるからかん高い声が上がり、体がびくりと跳ねる。逃げるように翻った体は資料を並べた棚に当たって阻まれ、ついでにそこまでしても未だ、がくぽの手は尻を掴んだままだった。カイトの。
「がくぽっ……っ!!」
上擦って甘く、追い詰められたうさぎの風情で呼ばれる名前と、羞恥に染まる肌、そして本格的に潤んだ瞳が浮かべる――
「だから、な……」
見入って目を離すことも出来ないまま、がくぽは再び、ため息をついた。掴んだままの尻を基点に、今にも頽れそうなカイトを抱き寄せる。
殊更に、下半身を当てた。
「が、くっ」
逃げようと引く腰は、がくぽが尻を押さえているため、かえって下半身を擦りつけるような動きになる。
進退窮まって、珍しくも黙って見上げるだけになったカイトの肩口に、がくぽは顔を埋めた。掴んだままの尻、向かう欲望を抑えられない場所へ、曲げた指の関節をぐりりとめりこませる。
制服越しだ。奥深くに侵入することはないが、雄の渇望は間違いなく伝わる。
「ふ、ぁ……っ」
か細い声で啼いて震え縋りついたカイトを抱きこみ、がくぽは堪えきれない熱を吐きこぼした。
「丸くもなければやわらかくもない。のに、惹かれて仕様がない。我慢も利かない。募って猛って爆発しそうだ。人気のない場所で、俺と二人きりになどなるな、カイト――」