「ぅーーーんがくぽが『王サマ』?」

話を振られてしばし、カイトは瞳を瞬かせ、首を傾げて考えこんだ。

王サマゲヱム

放課後の生徒会室だ。息抜きにと、隣同士で交わした他愛ないおしゃべりが、今日はすぐに終わらなかった。思った以上に盛り上がり、隣の隣、あるいはお向かいさんにと巡り広がり、カイトにまで――

カイトといえば、まったく聞いていなかったわけではないが、すべてを聞いていたわけでもないという。

くり返すが、もとは隣同士の会話、それが少しずつ輪を広げての、最終、会長のターンだ。

とはいえカイトの沈黙も、そう長かったわけではない。少なくとも、『生徒会は暇が過ぎるから永久に解散すればいい』とかなんとか、がくぽが悪態を吐くより先には、にっこり笑って答えた。

「かっこいーんじゃないうん、ホレちゃうかも」

言葉だけでなく、カイトはわざわざ、両の手指を使って大きな『はぁと』まで作ってみせた。

ノリのいい会長のお答えに、話題を振った生徒会役員たちは、もはや止めようもない勢いで沸く。

そういう、見ようによっては、茶化す態度のカイトだ。

が、陶然と蕩ける色の瞳に、うっすら染まった目元の組み合わせは、一概に茶化しているとも言いきれない――

と。

そこまでつぶさに見て取れたのは、がくぽだけだろう。

それというのもこれというのも、『問題児』の分際で、今日も今日とて会長のすぐ目の前の席に陣取っていたからだ。

否、そうであったとしてもやはり、ついうっかり、見て取ってしまったと言うべきか。

つい、うっかりだ。

おかげでがくぽは吐きかけた悪態をごっくん、逆流の勢いで呑みこむ羽目に陥った。

花色の瞳は落ち着かずにうろつき、閉めても締めきれないくちびるが、まとまらない言葉を転がしてもぞつく。

隠しきれず動揺する問題児に、『飼い主』たる生徒会長は、さらにおっとりうっとりと微笑んだ。

「まあ、言ってもさいくらかっこいーっても、見た目だけの王サマで、暗君とかならホレないけど」

「っっ!」

そう、あくまでおっとりのんびりと、にこやかに――陶然と蕩けた瞳も、うっすら染まった目元も、そのまま。

そのままきっぱり容赦なく、野太い釘を打ちこんでくださる。

声のトーンすら甘くやわらかなまま、うっかりのぼせていたなら思わず、聞き流しそうな。

がくぽも確かに『のぼせて』はいたが、さすがに聞き流すほどではなかった。

締めきれずにもぞつかせていたくちびるが、きゅうっときつく引き結ばれ――………………

沸き立って、もはや当の本人たちがそこにいることすら忘れたかのように盛り上がる、生徒会室のなか。

がくぽはひと言の悪態もなく、ただひたすらきつく、きつくきつくくちびるを引き結んでうつむき、沈黙に篭もる。

しばらく様子を見ていたカイトだが、やがて諦めた。待つのに飽きたとも言う。

お説教したわけでもないのに――むしろお説教したとき以上に本気で――うなだれる問題児を、若干の呆れとともに覗きこんだ。

「がくぽ、君さ……アタマいーでしょ学年トップスリーでしょ『俺がバカ殿になるわけないだろう』とかなんとかさ……」

一途が過ぎてかえって揺らいでぶれる花色の瞳とまっすぐ見合い、カイトはそこで堪えきれず、吹きだした。

「言わないんだから。『言えない』んだから……………ほんと、誠実だよね、君。俺、がくぽより誠実なひとって、ちょっと思い浮かばないんだけど」

笑いながらつぶやいて、咄嗟に反論を紡ごうと開きかけたくちびるに、くちびるを押しつける。

「っ、んっ……………」

力づくとは言い難い、やわらかな力で問題児の反抗を塞いで、この学校に君臨する生徒会長の笑みは、溢れる慈しみに撓んだ。

「『バカ』の暗君じゃ、ないんだよね、君。ただひたすら、誠実に誠実を尽くして――その結果の、暗君なんだから。ほんと、『バカ殿』以上に、ホレるなんて論外だよ。そうでしょ?」