きらずのはな
「カイト」
「ぁ…」
募る欲を堪え、諸共に抑えられて低く、掠れた声で呼べば、意図を察した恋人はぱっと朱を散らし、肌を染めた。
常には大きく開かれている瞳が羞恥に歪んで、躊躇いながら瞼を落としていく――
この瞬間を。
切望することが、ある。
この瞬間、この表情を、ずっと永遠に眺めていたいと。
もちろん、募る情動がある。猛る欲があり、そもそもは堪えきれないからこそ、がくぽもこうして求めた。そして恋人――カイトはそれに応えてくれようとしているのだ。
だからありとあらゆる意味でもって、そんなことはできないとわかっている。
否、できないし、したくもない。
こうして受け入れてくれようとする相手を眺めるだけで、一指すら触れられないような状態が続くなど、絶対にお断りだ。願い下げもいいところ、まったくもって、冗談ではない。
――それでも、この一瞬だ。
この瞬間、がくぽはどうしても、望んでしまう。
束の間であれ、過る願いがある。
がくぽが恋いて乞い、それにカイトが応えてくれようとする、この瞬間――
この瞬間を切り取り、永遠に残しておけないものかと。
永遠に、この瞬間に生きられはしないものかと。
誰も望まない。カイトとて望まないだろうが、そう『望んでいる』がくぽこそ、『望まない』。
望まないが望むから、狂おしいほどに希うから、がくぽは息も止め、瞬きもできず、この刹那のカイトに見入る。
一度見たものはなんでも覚える脳に、何度もなんども何度でも、この瞬間を刻みこむ。
けれど時に、絶望もする。もはや何枚、何十枚、何百枚分と刻みこんだか知れないのに、永遠があまりに遠く、遠く、とおく、果てなく遠く、――
「………がく、ぽ?」
伏せられていた睫毛が震え、おずおずと持ち上がった。
求められたから応えたというのに、がくぽがなかなか与えないことに焦れたのだろう。もしやなにか、がくぽの求めを読み違えでもしたのかと、そこに不安も覗く。
「がく……んぷっ、んん…………っっ」
熱に潤む瞳がそっと窺ってくるところまでを目に焼きつけて、がくぽは無理やり瞼を落とした。
光が失われ、奈落へと突き落とされる瀬戸際に、目算をつけていたカイトのくちびるに喰らいつく。
やさしくしたい。
やわらかに、穏やかに、愛し合いたい。
カイトと出会って現実味を帯びた理想は、瞬間の永遠と同じほど未だ遠く、とおく、果てなく遠く――
今日もがくぽは縋るにも似たしぐさで、カイトのくちびるを貪った。