雲行きが怪しかった。だから、生徒会の仕事を早く切り上げ、けれど会長だから、最後まで残って全員が帰宅の途に着くことを確かめ、施錠して――

Squaaaall!

「ぐっはっ……っ」

下駄箱から取り出した靴に履き替えたところで、カイトは魂をかっ飛ばした。

これは、比喩ではない。一瞬のことではあるが、確かに21グラム軽くなったのだと、カイトはあとで主張した。

その真偽はとりあえず、置くとして、――

「逆に、良かっただろう。これだと駅に着くより、はるか前には降り出していただろうから……」

21グラム、軽くなるだけでなく、石化までかかって棒立ちに固まるカイトに、傍らに並んだがくぽは淡々と、しかしさすがにフォローめいた言葉をこぼした。

だけでなく、ふと、思いついたふうに自らの鞄を漁る。中から折り畳み傘を一本、取り出すと、カイトへと差し伸べた。

「使うか?」

「それで、どーにかなる降り方かっ!」

八つ当たりだとわかってはいたが、カイトはつい、大声を上げてしまった。

否、八つ当たりだけとも言えない。

それくらいの音量でなければ掻き消され、とてもではないが、会話が成り立たないような状況ではあるのだ。

雨に動揺する周囲の喧騒もあるが、降り方だ。

近頃ウワサのオンナノコもとい、土砂降りも超えた、いわゆるゲリラ豪雨だった。

靴を履きつつ、ぽつぽつ来たっぽいなしまったーと、――

思ったカイトが顔を上げたらもう、滝だった。一瞬だ。水の落ち方も滝同等だが、音もだ。耳が痛い。

雨が本格的になる前にと校舎を飛び出していった生徒のほとんどが、先へ進むどころでなく、慌てて戻って来た。

が、その、ほんの数メートルの距離でもはや、びしょ濡れの濡れねずみだ。傘を差していたものもいたが、役に立ったようにはまるで見えなかった。

そういう、普通の大きさの傘でもろくに役立っていない状況で、折り畳み傘があるからなんだと。

「しかもそれ、ぜっったい、俺とがくぽで相合傘でしょこの降りで折り畳み傘でコントネタにすら、なんないからっ!」

がぅがぅがぅとがなるカイトに、がくぽは大人しく傘を引っ込め、肩を竦めた。

「じゃあ、どうするんだ」

「どうするもこうするもっ……」

そこまで言って、カイトはぐっと、くちびるを引き結んだ。きつく、拳を固める――

次の瞬間にはがっくりと脱力して項垂れ、カイトは力なくがくぽを見上げた。

「がくぽ。顔、――にやけ過ぎ。君、どんだけ思うつぼなの、この状況……」

「さてな」

指摘に、がくぽはなんの気ないふうを装い、自らの口元に手を当て、半面を隠した。

玄関口だ。放課後とはいえ状況が状況で、周囲には生徒が大勢いる。こんなところで、噂の『問題児』がだらしなくやに崩れているさまを晒すなど、幾重にも得策ではない。

が、自らわかるほどゆるゆるのぐだぐだに緩んだ表情は、なかなか力を取り戻せない。

悪辣なほどの喜色に溢れるがくぽをしばらく見つめ、カイトははあと、全身でため息をついた。せっかく履き替えた靴をもう一度履き替えると、踵を返す。

「カイト」

どこに行くのかと声を上げたがくぽを、カイトはちらりと振り返った。

「いつまでもここにいても、仕方ないじゃん。どうせ一時間か、二時間か、身動き取れないんだし」

ぶつくさとこぼすと、大きく、腕を回すようにして、がくぽを招く。

「だから、ほら――行くよ生徒会室か、教室か……どっちか、どっちでもいいけど、とにかくひとがいなくて、ふたりっきりになれるとこ!」