くものひかり

ぴぴぴっと軽快に鳴る目覚ましを止め、カイトはのそりと体を起こす。

「ん、ぅ………っ」

「………」

その途中で腰に縋りつかれ、腹に顔を埋められて、カイトはわずかに眉をひそめた。

出て行くな、と全力で押し止められている。

とはいえ。

「がくぽ………俺もう起きて、朝ごはん作んないと……。がっこー行くの、間に合わなくなっちゃう……」

「………」

いつもなら駄々を捏ねたり、屁理屈を言ったりする相手は、無言。

なにも主張しないままに、縋りつく腕だけを強くする。

「…………がくぽ」

「………」

腹に埋められてしまって、その表情は見えない。長い髪もいいように顔を隠して、ますます。

「………」

「………」

朝ごはんを作るのは、自分のためでもあるけれど、がくぽのためでもある。

健康で、元気で、ずっといっしょにいられるように。

カイトががくぽのために作るごはんは、いつもその願いで溢れている。

だからこうして縋りつかれて止められても、学校に行くまでに食べられるように、きちんと起きてごはんを作らなければ――

「がぁくぽ」

ぽんぽん、と軽く腕を叩きながら、カイトは起こしかけた体を布団に戻した。

腕の中に戻ってくる気配に、がくぽもわずかに力を緩める。

再びベッドのひとになると、カイトは散らばって顔を隠すがくぽの長い髪を梳いて脇にやり、額にキスした。

「………………いいのか」

自分で止めておいて、ひどく気弱にそんなことを訊いてくる相手に、カイトは楽しそうに笑った。

「朝ごはんは食べるからね、絶対」

「………」

「時間にもよるけど………昨日の夜の残りものか、――さもなければ、いっしょにがっこ行こ。そんで、構内のカフェでいっしょに、適当なの食べよ?」

「………」

頬を撫でて言うカイトに、がくぽの体から力が抜け、そのくちびるがわずかに笑みを刷く。

カイトは瞳を細めると、緩んだがくぽの瞼にくちびるを当て、長い髪をやわらかに梳き続けた。