もう一度メモを見返して手に提げた袋の中身を軽く確認し、がくぽは微妙に不安な顔で頷いた。
「まあ………大丈夫だろう」
つぶやくと、まだ慣れないアパートメントの階段を昇る。
旅路の果て
引っ越して来たその日だ。事前にどう整えても、なにかしら不足が出る。
がくぽは、とりあえず危急的に必要なもの、ということで、カイトにメモを渡されて買い物へと出た。
いっしょに来なかったカイトは、新居の掃除中だ。
帰ってきたら、もっと気持ちよくなってるからね!と笑っていた。
カイトがいるだけで、居心地などというものは十分だと思うが――
自分たちの部屋の前に行くと、もう一度袋の中身を確認。
「………っ」
わずかに不安な表情ながら、がくぽは覚悟を固めて扉を開いた。
「カイト………」
「あ、おかえり、がくぽ!買い物ありがとう!ちゃんと買えた?迷子になんかならなかった?」
がくぽが皆まで言うより先に、笑顔のカイトがキッチンから小走りで出て来て、迎えてくれる。
エプロンで手を拭いたカイトは、そのまま、カウンターのほうを指差した。
「あのね、俺、簡単に食べられるもの用意したから、ちょっと休憩にしよ?あるものだけで作ったから、大したことないけど。そろそろおなか空いた…………がくぽ?」
「………っ」
笑顔で近づいてくるカイトを凝然と見つめていたがくぽは、よろめいて背後の扉にぶつかり、荷物を落とした。
両手で顔を覆うと、床にへたりこむ。
「ちょ、がくぽ?!どうしたの、具合悪い?!それとも、外でなにか……」
「どうしよう、カイト」
慌ててやって来て目の前に膝をついたカイトに、がくぽは掠れる声を上げた。
「泣きそうだ」
「えええっ?!なに、どうして………っわっ!」
出かけるときには、いつものがくぽだった。
いったいなにがあったのかと狼狽えるカイトを、がくぽは力任せに掻き抱いた。
「ちょ、いた………っ」
「愛してる。………愛してる、カイト…………っっ」
「…………」
痛むほどに力いっぱい、抱き締めるというより縋りつかれて、上がる掠れ潰れた声。
ひたすらに告げられる愛に、カイトは初め瞳を見開き、それからふっと笑った。
不自由な体で懸命にがくぽを抱き締め返すと、その肩にこてんと頭を凭せ掛け、瞳を閉じる。
「おかえり、がくぽ」
ささやく、迎える言葉。
「おかえり………」
嗚咽をくり返していたがくぽは、さらにカイトの体に爪を立てて縋りつき、吐き出した。
「ただいま、カイト………」